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未成年での性被害の経験「あり」 Twitterアンケートで10万票を超え 今なお拡散中

堀潤ジャーナリスト
育児中の男性がTwitterで行なっているアンケート 回答者は16万を超えている

2男1女を育てる40代の父親がTwitter上で行なったアンケートがいま大きな反響を呼んでいる。

テーマは未成年の時に受けた性被害。開始から4日間で16万アカウント以上が投票し、閲覧用と答えた人を除くとおよそ8割が「ある」と回答、10万件を超えた。胸の内にしまっていた「過去の経験」を打ち明けるコメントも次々と寄せられている。

「習い事の先生から被害を受けた。辞めたいと思ったが親に怒られるのではないかと思い悩んだ」「家族からの被害だった。今も誰にもその経験は話せていない」「自分の被害を周囲に打ち明けるのは恥ずかしいことだと思って黙っていた」など厳しい経験談も少なくない。女性、男性、LGBTsと、性差に関わりなく参加者の心情が切々と語られている。

このTwitterアンケートの表示回数は100万を超え、今なお拡散中だ。

父親はなぜこのアンケートを書き込んだのか、回答した人たちは何を思い投票したのか、そして私たちは今後何をするべきなのか。

「暗数」と呼ばれ、公では実態の把握が難しい未成年時の性被害の実態を物語る一助とするため、父親やアンケートへに参加した人たちに直接話を聞いた。

■きっかけは「未成年の時に被害にあっていない女性って探す方が難しいよ」という仲間の言葉

このアンケートを行なっているのは、2男1女を育てる40代の父親「りょうたっち」さん。働きながらの子育てや待機児童問題などについて父親目線からの率直なツイートを続けてきた。フォロワー数は5千を超える。未成年が被害にあう事件がメディアで相次いで報じられる中、子育てを通じて知り合った同年代の母親の言葉がアンケートの実施に結びついたという。

『「未成年の時に被害にあっていない女性って探す方が難しいよ」とそのお母さんが言ったんです。それが自分の肌感覚と全然違って「マジか!」と思って。痴漢や冤罪の話はニュースで知っているし、性犯罪のことも伊東詩織さんの記事を読んでいるんですけど、自分の人生の中でそれって誰からも聞いたことがない。肌感覚として「探すのが難しい」って8割9割いるってことじゃないですか。多いって言っても5割とか6割くらいなんじゃないのって何となく思っていたんですよね、その時。でも、もしかしたら本当かもしれないなと。自分も子どもがいるので、自分がもしそういう犯罪に巻き込まれたらということを考えると、今まで自分は痴漢もしないし、そんな性犯罪なんてしたことがないから、無関心というか、自分事として考えるというところまで思考が及んでいなかったなと思って。でも、自分は男だから。男に女性がそんな性の被害にあったなんて話はしないだろうな、そしたら自分は知らないだけかもしれないなと思って。これはもうファクトを知りたいなと。自分と違う認識の世界が広がっているんだったら、それを知った上で何か考えたいなと思ったのがきっかけだったんです。』

未成年に対するセクハラや性被害の実態を調査した公の資料は限られている。

平成18年に公表された「犯罪白書」によると、強姦の被害にあった女性を年齢別で見ると、6歳から19歳までを合わせると42.2%。強制わいせつでは0歳から19歳までの未成年への被害が56.3%とされている。ただ、前述したように性的被害は周囲に対して相談ができない被害者の数も少なくなく、「暗数」と呼ばれ公になっている以上に被害実態が広がっているという指摘もある。

平成18年版「犯罪白書」より引用
平成18年版「犯罪白書」より引用

そうした中、今回のTwitterアンケートで8割を超えるアカウントが「未成年の時に性的な被害にあっている」と回答したことは貴重な情報の一つだと考える。

■女性たちからは「このアンケートの結果に驚きはない」という声が

アンケートに答えた女性たちは何を思ったのか。取材を通じて率直な思いを聞くことができたので紹介したい。

取材に応じてくれた30代の母親は筆者からの質問に以下のように答えた。

Q1.

アンケートをみて、なぜ答えようと思いましたか?

私も性的被害を受けたからです。そしてみんなが公表することで良い方向に変えていけたらいいな!と、そしてたくさんの方が公表することで大きなムーブメントにもなるからです。

Q2.

アンケートでは未成年で被害にあったと回答された方が10万アカウントを超えています。その数をみて驚きはありましたか?それとも納得できる数ですか?理由も併せて教えてください。

納得できます。中学、高校が女子校だったので痴漢にあった!という声はよく聞きました。だから私にとっては「やっぱりか」という感じです。

Q3.

ご自身はアンケートにどのように回答されましたか?

よく覚えていませんが、たぶん「幼稚園の時に受けた性的嫌がらせは鮮明に今でも思い出せます」だったかなと思います。

Q4.

自身、今回のアンケート結果や寄せられるコメントなどをご覧になり、あらたに気がついたこと、感じたことはありますか?

やっぱりみんな気持ち悪い思い出、自分を苦しめるものを吐き出したいんだなと思いました。そんな場を待っていたのかもしれません。ツイッターは匿名性もありカミングアウトするハードルが低いのかなとも思いました。そして「実兄」にというコメントをお二方見つけて、自分だけじゃないのかと、ちょっと心が軽くなりました。

それでも私はツイッターで吐けません。だからと言ってカウンセリングなどに行くほどでもなく、ただ自分の中で抹消しようとしたら、普段は忘れられる。でもふとした瞬間に思い出され、自分自信が忌み嫌うもののように感じてしまうこともあります。

第三者で自分とは近くない人が話を聞きに来てくれる(自分で行く気力はないので)と、話しやすいのかなと思いました。

Q5.

子育て中のお一人として、親たちは今後未成年への性的被害にどう向き合うべきだと思いましたか?

難しい質問ですね、でも真っ正面から向き合いたいです。子どもを守れるのは親ですから。

ちょっと息子に電車通学のとき痴漢にあっていないか聞いてみます。もしかしたらあっているかもしれないし、気付いていないだけかもしれません。

今のところ私にできることは、まずはそれかなと思いました。

■専門家たちはこのアンケートをどう見たのか?

昨年、刑法性犯罪の改正を求める運動を続け、自ら性暴力被害にあった当事者たちを救おうと活動を続ける「ちゃぶ台返し女子アクション」共同発起人の鎌田華乃子さんは今回のアンケート結果についてこう答えている。

Q1.

アンケートでは未成年で被害にあったと回答された方が10万アカウントを超えています。その数をみて驚きはありましたか?それとも納得できる数ですか?理由も併わせて教えて下さい。

被害の数としては相当数あると感じているので驚きませんが、性被害は匿名であっても言いにくいことですし、思い出したくもないトラウマになっていることが多いので実際に回答された方がこんなにいらした、というのはとても驚きました。また、性被害というのは被害者にも落ち度があるので、被害者が我慢しているべき、という文脈が強い日本で声をこのような形で上げる方たちがいるのは希望にも感じます。

相当数被害があると感じていたのは、去年の刑法性犯罪改正を働きかけるビリーブキャンペーンでご自身の性被害のストーリーをオンライン・匿名で共有していただくお願いをしたのですが、かなりの数、小さい頃の被害があることを実感したからです。また、活動をする中で「私も実は・・・」と打ち明けてくださる方が沢山いました。

Q2.

鎌田さん自身、今回のアンケート結果や寄せられるコメントなどをご覧になり、あらたに気がついたこと、感じたことはありますか?

親に言えない、というのはとてもわかります。私も痴漢に遭ったとか親に言えなかったです。恥ずかしいことをされた、という思い。自分が悪かったのかも、という自責の思い。傷ついて怖かったという、恐怖の思い。そういった思いから言うことがとても難しいのですが、その現実が今まで被害者の方たちも沈黙してわかりませんでしたが、沈黙を破ったことによって、どれだけ言いにくいことなのか、というのが社会で共有されるようになったな、とコメントをみて思いました。投票に参加された方、ご自身の経験をシェアした方、そしてこの質問を投げかけたりょうたっちさんに感謝します。

被害は圧倒的に女性が多いと思いますが、特に子ども時代は男の子も被害に遭いやすいというのもコメントで改めて思いました。男性の方がより恥ずかしい、という思いが強くなるのではないでしょうか。また子ども時代の性被害がどれだけ心を傷つけ、自信を失わせ、人間不信を導くかも再実感しました。あらゆる人がその人らしく、ご自身を発揮していくことがこの社会にとって大事なのに、性暴力はそれを大きく妨げるものです。性暴力はどんな状況であっても許されない、という考えを社会で共有していくことが必要と思います。

Q3.

今後未成年への性的被害にどう向き合うべきだと思いましたか?

まず親が出来ること、というのが沢山あると思います。親が子どもに何が起きても絶対肯定してサポートする、被害に遭っても「あなたが悪い」という態度を取らない、常日頃そういう態度を示しておくのはとても大事です。実際に被害に遭った方の回復も周りのサポートがあるかないかでまったく違うそうです。*1そして性や性暴力について話すことを避けないことだと思います。とくに性暴力については「夜道を歩かない、露出の多い服を着ない」とか女の子に自衛を促すことを親はいいがちだと思います。それも必要ではありますが、例えば服などは偏見で、レイプ被害も実際には露出のまったくない服を着ていて遭う人が沢山います。そして加害者にもならないように人を尊重することを教えていくことが最も大事だと思います。そして社会からのプレッシャーというのも子どもたちは沢山感じています。そのため、私たち一人ひとりが「性暴力は許されない。被害者は絶対に悪くない」という発信を常にしていくことが出来ると思います。

そして制度や法律の面では沢山出来ることがあります。欧米では子どもの頃の性被害が甚大な悪影響があることを認識しているので、かなりの対策がされています。専門のカウンセラーが多く養成され、子ども専用の性被害ケアセンターがあり、無料でカウンセリングを受けられるようになっていたりします。また、子ども時代の被害は数十年後にやっと言えるようになる、思い出せる、というのもあるため、公訴時効が無期限だったり成人を過ぎてからカウント開始されるなど、被害を適切に訴えられるような配慮がされています。日本の性犯罪の時効は他の犯罪と同じです。特別な配慮が必要であることを日本も考えるべきだと思います。そして、性交同意年齢も他国は16ー18歳であるのに対して、日本はなんと13歳。中学生になったとたんに性交に同意する能力があるとみなされてしまいます。そこも見直しが必要ではないでしょうか。

また、私が関わるちゃぶ台返し女子アクションでは大学生にセクシャルコンセント(性的同意)を伝えるセクシャルコンセントハンドブックを大学生が中心に作成し、今年の4月から各大学で学生主体で配布しています。また性暴力に関心を持つ大学教員や職員の方からも多数お問い合わせ頂いています。5/27に東京都内で報告会を行いますので、ぜひご参加ください!

http://chabujo.com/event/handbook-0527/

■「見たくもない汚い現実を直視し、考える必要がある」と弁護士は語る

法律家はどう見ているのか。

セクハラやDVなど性暴力被害についての弁護を積極的に行う三輪記子弁護士も今回のアンケートに答えた一人だ。

三輪弁護士は相談体制の強化が急務だという。

Q.1

アンケートの結果をご覧になって何を感じましたか?

まず、回答者が非常に多数になったことに驚きを感じました。これはツイッターの匿名性が良い方向に働いたケースだと思います。回答者が多数になったのはそれだけではなく、質問者の真摯な姿勢も好影響を及ぼしたものと感じました。

さらに、昨今の#metoo機運の高まりも見過ごせません。これらが相まって、「これまで声をあげたくてもあげられなかった」人のたくさんの声が可視化されたのだと思います。

私自身はこのくらい多数の方が幼少期に性被害を受けたことがあることには驚きを覚えませんでした。このくらい多数の人が声をあげることができず、心に傷を抱えたまま人生を生きていることは想像ができます。

もし、この結果に驚きを覚えた方には是非ともこの結果を他人事としてではなく、自分のこと、自分の身の回りのこととして受け止めてほしいと思います。あなたが驚いたその対応、その対応を見て被害者は「この人には話せない」と思ったのかもしれない。そして、あなたが知らない(見えない)現実は確かにこの世に存在していることに思いを馳せてほしい、そのきっかけになってほしいと思いました。

Q2.

今後必要なことは何でしょうか?

今回、誰しもが見たくない現実が奇しくも可視化されました。

見たくない現実を存在しないことと扱うのではなく、見たくもない汚い現実を前提として、それに備えるセーフティネットを作っていくべきだと思います。

性被害を受けたときの相談体制、ケア(治療)体制の整備は必要ですが不十分です。

これらについて十分な整備を求める声を皆さんであげてもらえたら、、と思います。

■父親は語る 私たちが今後何をするべきなのか

アンケートを実施したりょうたっちさんに今後のことを聞いた。この結果をどう活かすべきなのか。

Q1

今回のアンケートを通じてわかったことを誰に一番伝えたいですか?

やっぱり男性ですね。特に加害者なっているとかいう男性ではなくて、パパであったり、これからパパになる人であったりですね。対象が未成年のうちに被害に遭ったというアンケートの聴き方をしているので、これからお子さんを持つ方や持っている方。お母さんたちが「危ないから知らない人にはついていくな」っていうのは、同じ言葉かもしれないけど、やっぱり心配している度合いとか伝え方が(お父さんが言う時と)違うと思うんですよ。仲間の母親が(今回のアンケートをきっかけに性暴力について)娘さんに話したと言っていましたが、(このように実態を知ると)話しかける頻度も聞き方も変わってくるだろうし、そういう変わるきっかけなんじゃないかなと思いますけどね。

Q2.

親たちが変わることも解決策の一つということですか?

「これママに言ったら怒られるんじゃないか」という感じで言えない雰囲気ってあるじゃないですか。それってやっぱり、僕も毎日お迎え行っていた時に息子の様子がいつもと違うなと思って「今日どうしたの」って聞けるか聞けないかみたいな、ちょっとしたところに関わって。今回のことで情報が頭に入ってきて、知った上で、もしかしてこういうことがあったのかもと想像力が今まで働かなかったところが、500件くらいの事例が頭に入ったので。自分はその痛みはわからないけれど、そのシーンは想像できるようになったので、それで子どもの話を聞いて、本当は起こってほしくないんですけど、遭わないために、そういうシーンにならないような、危ない場所を察知して考える力は磨かないといけないんですけど。もし遭った時に、リプライで多かったのが、「親とかに相談したら怒られた」とか、「その程度のことでって言われた」とか、「そんなのは股間を蹴り返せばいいんだと言われた」とか、そういうリプライが多かったんですけど、いまの自分だったらそういう回答は絶対しないなと。やっぱり悲痛な声を聞いたから、子どもがそうなっても、その気持ちは想像できるようになったなと。想像できないままだとそういう回答をすることになったかもしれないですけど。知った今は、あっては欲しくないですけど、あった時に話せる雰囲気を作りたいというのと、自分が受け止められる話し相手になりたいなと思います。

ぜひ多くの人たちに伝わって欲しい。

我々大人が変わることで、救われる子ども達がいるのかもしれないということを。

ジャーナリスト

NPO法人8bitNews代表理事/株式会社GARDEN代表。2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で客員研究員。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。2016年(株)GARDEN設立。現在、TOKYO MX「堀潤モーニングFLAG」キャスター、Amazon Music「JAM THE WORLD」、ABEMA「AbemaPrime」コメンテーター。2019年4月より早稲田大学グローバル科学知融合研究所招聘研究員。2020年3月映画「わたしは分断を許さない」公開。

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