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TM NETWORK、配信ライブを軸に繰り広げる最新サイバーパンク3部作。“本当”の結末とは?

ふくりゅう音楽コンシェルジュ
TM NETWORK photo by 関口佳代

再起動、分断、そしてスタンバイ。

2021年に再起動したTM NETWORK。サイバーパンクなストーリーによる3部作シリーズとなった配信ライブ『How Do You Crash It?』によって、止まった時計の針を動かした小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登による3人。まるでNetflixの映像コンテンツのように解像度高めに物語は核心へと進んでいく。

キーワードは“潜伏者”だ。1974年からの計画、地球外生命体TM NETWORKの3人は、様々な問題に揺れる地球の状況をリサーチしにスペースシップに乗ってあらわれた。ライブシーンと共に展開されていく、フィクションとノンフィクションが折り重なったSF物語である。まさに、考察をゲームのように展開するライブエンタテインメントのDX(デジタルトランスフォーメーション)という可能性を示してくれた配信ライブなのだ。

昨年10月9日に、6年ぶりの“再起動”をえがいた第一弾(one)、12月11日に“分断”をテーマとした第二弾(two)、そして2022年2月12日の第三弾(three)では“スタンバイ”というイメージが広がっていく。

あなたは、このストーリーをどう読み解くか? 配信ライブ『How Do You Crash It?』シリーズ3部作いよいよ完結編へ。

●第三弾配信、TM NETWORK『How Do You Crash It?three』

21時ちょうど、突如スタートしたライブステージ。

オープニングは、TM NETWORKにとって未だレコーディングされていない、いわゆるプロジェクトのアイデンティティーでもある大切なナンバー「TIMEMACHINE」(作詞:小室哲哉 作曲:木根尚登)。いきなり涙腺崩壊だ。今ならわかる“いつかは消えていく 大地も夜明けの光も だけども君の夢 悲しませたくはない いつまでも”という歌詞フレーズの重みが。

逆光によって影めいた姿で歌う宇都宮隆のあたたかみのあるクールさ。

ライティングのエフェクトが印象的なステージ。それはまるで、たおやかに鳴りひびくサウンドによって掛けられた宇宙空間の虹のようだ。

シリーズに登場する潜伏者である少女が海を見渡している風景。俯瞰すると、海沿いの工場の景色のようだ。そして、夜の港にたたずむ小室哲哉。

鳴り渡るシンセサイザー。イントロダクションの断片から「Alive」だと気がつく。“絶えない対立の種 亀裂広がるこの世界”。“守りたいものがあるから 恐れる気持ちが争いを呼ぶ 歴史を繰り返す”という、まるで昨今のウクライナ情勢を予言したかのような歌詞に気がつき、身震いする。

天井からデルタ群、三角形の可変するLEDモニターが、モノリスのようでありテセラックのごとく意思を持つかのように輝きだす。

TM NETWORK photo by高田真希子
TM NETWORK photo by高田真希子

気がつけば3人のシャツがグレーからホワイトへ変化していた。そう、3部作のライブシーンを通じて3人のいでたちが急遽変化するシーンが続いたことは、考察すべきポイントのひとつかもしれない。

木根尚登がアコースティック・ギターに持ち替え、冬のキネバラ「N43」をプレイ。小室哲哉のオルガン・サウンドが宇都宮隆のハートフルな歌声とともにあたたかな雰囲気を醸し出す。FANKS(※TMファンの意)にはおなじみの隠れた名曲だ。

ここで、事前に予告されていた木根尚登のソロコーナーへ。

かつて木根は80年代のTM NETWORKのライブステージで、パントマイム、スティルト(脚長パフォーマンス)、宙を舞うフライングなど、様々な演出によってライブ空間を彩ってきた。TM NETWORKがエンタテインメント・ユニットたる所以だ。

そんな木根が、ふとアコースティック・ギターをパーカッシヴに叩きはじめた。足元のルーパー・ペダル(※サンプリングし、多重録音できる機材)を操作し、ギターやハーモニカで様々なフレーズを多重録音することで、その場でせつなくもポップなトラックをリアルタイムに構築していく。まさにアナログとデジタルを行き交うぼくらのロックショー、MCやアンコールが一切存在しないTM NETWORKにおける独壇場となるパフォーマンスに心があたたまった。

続いてイントロからダンサブルかつエモーショナルな音像に、画面越しにネットワークでつながっているオーディエンスの感情が燃え上がってきた。エレクトリック・ギターを弾く木根尚登、シンセサイザーで歪んだサウンドを奏でる小室哲哉。オルタナティブでデジタルロックな、普段よりアッパーな「RESISTANCE」の登場だ。今の時代こそ心に刺さる“あきらめないで自分らしく生きること”、強い信念を歌いあげるナンバーである。

再び画面には、世界中の街の風景、アメリカBLACK LIVES MATTER運動のデモ行進、COVID-19ワクチン接種、マスク姿の市民、山火事や台風、噴火など自然災害の映像が流れる。時折挟み込まれるシーンによって、TM NETWORKが活動休止した2015年以降の地球の情報が集約され進行していく。

小室哲哉によるコーラスワークからはじまった圧巻なビートチューン「BE TOGETHER」。木根尚登もキーボードを操り、トロピカルな最新アレンジによるシンセリフが印象的なナンバーにアップデートされていた。宇都宮隆が木根尚登に、笑顔でソーシャルディスタンス寄り添いをみせたのも印象的だった。

●パンデミック下、ノンフィクションな現実と絡み合う究極のフィクション・プロジェクトであるTMワールドの物語

そして、キーとなるナンバー「Self Control」の登場だ。リプロダクション・アルバム『DRESS2』のアレンジを進化させたヴァージョン。宇都宮隆による澄み切った透明感溢れる歌声、そして、シンプルながらも聖なる想いを元気玉のごとく集めるシンセリフの凄み。まるで天を突き破るがごとく胸の高まりが止まらない。“教科書は何も教えてはくれない 明日のことなど誰もわからない おもいきり泣いて おもいきり笑って 君をとりもどせ 夢をとりもどせ”など、感情に火を灯す言葉の数々が熱い。

まさに今の時代とても大事なリリックだと実感する。“TM NETWORKらしさ”を体現するナンバーなのだ。

帰ってきた個の連帯であるTM NETWORK。3人だけでステージに立つ姿。時代を越えて選曲されたセットリスト。パンデミック下、ノンフィクションな現実と絡み合う究極のフィクション・プロジェクトであるTMワールドの物語は、新曲「How Crash?」によってすべてが集約され、次世代へとブロックチェーンのようにセキュアにつながっていく。

唱えられる“Everyone makes mistakes”のフレーズ。

キャッチーなサビはじまりのSFライクなポップサウンド。伝えたいことが多すぎるのか、あふれんばかりに情報量の多いAメロでのストーリーテーラーとしての宇都宮隆の存在感の強さに感銘を受ける。そして小室哲哉、木根尚登によるコーラスワークにより説得力を増幅していく3人のパワーが熱い。手弾きによるシンセリフの神々しいエモーショナルな感動。インターネット普及以降の社会の変化を描いたストーリー。唯一無二のトライアングルなステージが繰り広げられていく。

画面は転換し、タブレットから流れる2015年の情報を閲覧する少女。そう、TM NETWORKは2015年に一旦『TM NETWORK 30th FINAL』として活動を休止していた。そんななか伝えられる、パンデミックの話が盛り込まれた謎めいた予言メッセージ。

「20世紀末、我々がもっとも恐れていたのは核戦争でした。しかし、2015年の今、世界的なオピニオンリーダーも予言しています。もしも世界で何千万人の命が失われる危機が訪れるのなら、それは第三次世界大戦ではなく、感染症のウイルスによるものであると。次の疫病大流行が訪れたとき、我々の準備はできていません。これは不見識なミステイクです。How do you crash it? ※通信オンが途絶える音……」。(劇中のナレーション・ヴォイスから)

コロナ禍、ウクライナ情勢が気になる2022年。先延ばしにされた気候変動や、環境問題や、人種問題、エネルギー問題。様々な課題が浮き彫りになるなか、もしかしたらTM NETWORKは、時を超えてメッセージを伝えてくれていたのかもしれない。

配信ライブ『How Do You Crash It?』の物語は、かつて1987年にリリースされたTM NETWORKアルバム作品『humansystem』や、2000年に行われたコンサート『TM NETWORK Log-on to 21st Century』、そして『incubation Period』など30周年シリーズにも通じる。行き過ぎた社会の成熟、テクノロジーの進歩への警告、破滅へと向かう人類。しかし、それを調査する為に潜伏していたTM NETWORKの3人というストーリーテリング。そして、我らオーディエンスもまた潜伏者だったというメタ構造が取り入れられていることに着目したい。

ポップミュージックは時に、炭鉱のカナリアのように社会問題を浮き彫りにすることがある。音楽が時代を映す鏡であることは、TM NETWORKのヒストリーを知るFANKSであればよくわかるはずだ。

●潜伏者である3人に課せられたミッション。それは、地球上の分断をストップするための活動へのスタンバイ。現実と非現実が交差していく

宇宙船内のシーン。一瞬「Fool On The Planet」のように思わせる鳥肌もののコードが醸し出す音の断片。そして、TM NETWORKを代表する「ELECTRIC PROPHET」がインストゥルメンタルによるデジタルオーケストラとして奏でられていく。

宇宙船内で稼働する三角の石盤、光り輝くモノリスを操る小室哲哉。上空には謎めいた数字、日付!?が表示されていた。タイムマシンでの移動を表現しているのかもしれない。そう『How Do You Crash It?』3部作は「ELECTRIC PROPHET」ではじまり「ELECTRIC PROPHET」で終わりを告げていく。

TM NETWORK photo by高田真希子
TM NETWORK photo by高田真希子

中央に3人が集まり、地球を見渡すかのように背を向けるTM NETWORK。変異しながら稼働する物体、三角形のモノリスが天井から降りてきて3人を楕円状に包み込む。大団円だ。エンドロールではシリーズを通じてのセットリストが流れ、クレジットが映し出されていく。

ラスト、終わったかと思いきや……画面転換。宇都宮隆が、渋谷のとあるロックバーでレコードを手に取りプレイヤーにかけた。3部作通じてエンディングで流れたタイトル不明曲のインストゥルメンタルでのフルバージョンがビートを奏でていく。テネシーウイスキー、ジャックダニエルを飲む姿が、いつの時代も変わらぬたたずまいだ。

木根尚登もまた別のロックバーを訪れ、情報が込められたメモリーデータの役割を持つバトンを手にカウンターへ。ラップトップでプログラムを書きだしていく。どうもバトンと連動しているようだ。

アジトにて、各所が映し出されたモニターを見守る小室哲哉。「Get Wild」のミュージックビデオを彷彿とさせる中華街へとズームアップ。街を彷徨うカメラ。路地裏に映し出されたサイバーパンクなネオンサイン、“NFTショップ”の文字。3人はそれぞれの地で潜伏し、宇宙に帰還することはなかった。これにて本編終了……。

『How Do You Crash It?three』は、確実にネクストへつながる内容だった。潜伏者である3人に課せられたミッション。それは、地球上の分断をストップするための活動へのスタンバイ。現実と非現実が交差していく。

3部作を堪能した感動と、2015年〜2022年という時間軸の変化というギミック。まだ明かされていない残された謎の数々が余韻をより深いものにしていく……。『How Do You Crash It?』episode 1の終了。果たして3部作の“本当”の結末とは??? 

今回、表示はされなかったが本格起動へ向けてスタンバイ=to be continued……と、いうことなのかもしれない。

<セットリスト>

『How Do You Crash It? three』TM NETWORK

TIMEMACHINE

Alive

N43

KINE solo

RESISTANCE

BE TOGETHER

Self Control

How Crash?

END.ELECTRIC PROPHET

<配信ライブ アーカイヴ概要>

TM NETWORK『How Do You Crash It?three』

■配信日時

配信期間:2月12日(土) 21:00〜2月20日(日) 〜23:59アーカイヴ視聴終了

■配信チケット価格

¥4,800 (+各配信メディアの定める手数料)

■配信メディア

https://linktr.ee/tmnetwork

☆ローチケLIVE STREAMING:https://l-tike.com/concert/mevent/?mid=478503

☆ニコニコ生放送:http://live.nicovideo.jp/watch/lv335547825

☆e+ Streaming+:https://eplus.jp/tmnetwork_ol/

☆PIA LIVE STREAM:https://w.pia.jp/t/tm-network/

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【TM NETWORK】

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【小室哲哉】

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【宇都宮隆】

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【木根尚登】

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音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

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