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いま存在するものを超えようとする意思 〜 布袋寅泰、20thアルバム『Still Dreamin'』

ふくりゅう音楽コンシェルジュ
布袋寅泰 / Photo by UNIVERSAL MUSIC JAPAN

布袋寅泰が20枚目のアルバム『Still Dreamin'』を2022年2月1日にリリースした。布袋寅泰の現在、過去、未来が交差する、現時点の布袋寅泰でしか成し得ないアルバム作品の完成。歌心、ギタープレイ、サウンドプロダクトへのこだわり。大人のポップロックを感じられる1枚であり、いま存在するものを超えようとする意思を感じられた1枚だ。

ミュージシャンの想像力は無限大だ。形なき音の連なりにイマジネーションを与えメッセージを紡いでいく。音楽とは不思議な時間芸術だ。人は、音と音の断片を並べて連続的に聴くことによって、現在を起点に、流れゆくフレーズの過去を脳内で補い、未来に鳴る音を予見することによってメロディーやビートをひとつの作品として脳内で構築していく。

10年前、2012年8月24日。布袋寅泰は拠点をイギリスへ移した。アーティスト活動30周年、50歳を迎えた年だった。目的は、世界での音楽活動という夢を具体的に実現させるため。それは、BOØWY 解散後、1988年にスタートした海外を見据えたソロ活動のリベンジであり、ギアの入れ直しだ。

あれから10年、布袋はたくさんのチャレンジを試みた。ギター片手に世界各地のライブハウスを巡った。その過程で、たくさんの新しい出会いがあった。イタリアの国民的ミュージシャン、ズッケロとの共演やIncognito All Starsとともに生み出した名曲「Find A Way」、東京パラリンピック開会式でのギタープレイなど、様々な結果へと結びついた。

しかし2020年、パンデミックによって世界は変わってしまった。自由に旅ができない世の中となった。

2022年2月1日、布袋寅泰60歳の誕生日にリリースされたアルバム『Still Dreamin'』は、向き合うべきテーマの変化を感じられ、表現すべき新たなメッセージが輪郭として浮き彫りとなった。結果、この数年ライブを共にした仲間たちとのレコーディングによって現在進行形でありのままをさらけだした、フレッシュなアルバム作品が誕生した。そんな意味では、ある種GUITARHYTHMシリーズを一旦終了させたアルバム『GUITARHYTHM IV』(1994年)を彷彿とさせる。布袋寅泰、新たな物語の誕生の予感がしたのだ。

アーティスト活動40年のヒストリーであるBOØWY、COMPLEX、ソロワークでのGUITARHYTHM。そして、様々なアーティストとのコラボレーション。1996年にはアトランタオリンピックの閉会式のセレモニーにてフロント・ギタリストを担当し、2003年には映画『キル・ビル』への提供曲「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」の世界的ヒット。デヴィッド・ボウイ、ザ・ローリング・ストーンズとのライブ・セッションなど、HOTEIヒストリーを振り返るとたくさんのシーンが浮かんでくる。そんな断片も、アルバム『Still Dreamin'』では、時折フレーズや歌詞など垣間見れるのが楽しい。人生は曲がりくねった道を螺旋階段上に駆け上がっていく。同じ場所にいるようで確実に見える景色は日々変わっているのだ。

<全曲解説:布袋寅泰 20thアルバム『Still Dreamin'』>

布袋寅泰『Still Dreamin'』/ UNIVERSAL MUSIC JAPAN
布袋寅泰『Still Dreamin'』/ UNIVERSAL MUSIC JAPAN

1曲目「Still Dreamin'」は、まさにBOØWY時代の「Dreamin'」のその後を紡ぐポップソングだ。パンデミック下、世の中の不穏な空気に一筋の光を与えてくれるモダンなロックンロールナンバー。

夢という言葉は不思議だ。夢を見つけられた人にとってそれは目標となる。しかし、夢はなかなか見つかるものではない。その言葉はときに呪いとなって人生の重荷となる人もいるかもしれない。

しかし、布袋寅泰は敢えて“夢”という言葉にこだわる。

叶うこと、それよりも夢を追いかけ続ける上で得られる成長、様々な気づきから違う夢への架け橋が生まれることもある。人は世界を変えることは出来ないかもしれない。他人を変えることも出来ないかもしれない。しかし、自分を変えることはできる。自らに課した、現状から一歩踏み出すための勇気。それを布袋寅泰は“夢”と呼んでいるのだろう。そんな願いにも近い想いを、ポップミュージックとして高らかに奏でていく。

2曲目「Do you wanna dance?」は、80年代を駆け抜けたバンド時代、BOØWY期に生み出した未発表ナンバーだ。80年代初頭、当時ロックはまだ市民権を得ていなかった。本人曰く、まだまだ稼ぐことができず、マヨネーズご飯が主食だったこともあったそうだ。しかし、クリエイティヴィティーは研ぎ澄まされている。ニューウェーヴという音楽ジャンルからの影響。尖ったギター・カッティングとダンスビート。ライブでは数回ほど披露された楽曲であり、今回、歌詞を布袋自身が書き下ろし、アレンジも時代を越えて“らしさ”溢れるサウンドが構築されている。長年のファンにとって夢のギフトとも呼べるナンバーだ。

3曲目「Let’s Go」で聴ける、ストレートな心情は布袋寅泰自身による歌詞作品だ。雑味のない、シンプルかつストレートなロックチューン。布袋ソングは聴きどころが満載だ。イントロのギターリフ、すっと入っていけるメロディアスなAメロ、タメの入るブリッジ、サビ前のメロウな展開、突き抜けるサビフレーズの高揚感、より響き続けるギターソロでの魔法めいた心に染み渡るフレーズたち。

そんな高ぶる優しき気持ちが4曲目「Starlight」でも変わらずに解き放たれる。良曲ぞろいの本作で個人的に一番胸に響いた作品だ。コロナ禍、移動に制限がなされた日常。しかし、そんな普段の生活からも感動は生まれていく。まるでGoogle Earthのように、宇宙から地球を俯瞰し、そして地球での日常へと一気にズームインとズームアウトするかのようなロマンティックな言葉が胸に残るナンバーだ。

『THE FIRST TAKE』でもプレイされた5曲目「コキア」では、作詞に大橋トリオ作品でおなじみのmiccaを迎え、朝ソングをアコースティック・ギターを片手にふんわりとした肌触りで奏でていく。布袋寅泰の歌声の良さ、ボーカリストとしての魅力を堪能できるナンバーだ。あなたの日常、日々のプレイリストに加えてほしいプレゼントにも相応しい1曲だ。

6曲目「オペラ」は、ピアノが牽引するシアトリカルなポップソング。人生をオペラにたとえ、物語を可視化する言葉を森雪之丞が手がける。ギターソロで曲がりくねった道を表現するかのようなフレーズの妙。初期キング・クリムゾンのメンバーで作詞を担当していたピート・シンフィールドを彷彿とさせるHOTEIファミリー、森雪之丞という作詞家の存在。9曲目「Rock & Soul Music」でも、その言葉の魔力はファンクなサウンドとともに進化するロックンロールを体現していく。アルバムで3部作と呼びたくなる森雪之丞による作詞参加作品は11曲目「世界は夢を見ている」へと結実する。人が生きる真理を説く、壮大な世界観を解き放つロックバラードだ。

アルバムの先行配信リード曲であり、注目すべきナンバーが7曲目「Pegasus」だ。ライブ時とシンクロする淡いイントロダクションが追加されたアルバム・ヴァージョン。コロナ禍で自由にならない、縛られた感情を解放するようなサウンド・プロダクションと呼応する熱いメッセージ性。BOØWY「Marionette」や、イギリスのロックバンド、ザ・ポリスを彷彿とさせるマイナー調ながらエモーショナルなメロディーに疾走するビートが絡み合う。いまの時代だからこそ生み出せた、布袋らしい王道ナンバーに耳の喜びが止まらない。

ロックンロールチューンといえば8曲目「理由」だ。ザ・ローリング・ストーンズや、過去の布袋ソングを彷彿とさせるギターカッティングによって構築されていく。自由になることに理由はいらない、こんな塞いだ世界でも心は笑っていて欲しい。そんなメッセージをはち切れんばかりの高揚感溢れるミドルなビートにのせて伝えてくれる。さらに10曲目「Pure」でも、ギターカッティングとともに“らしい”サウンドセンス、ポップパンクなメッセージ性にテンションが爆上がる。

布袋寅泰、20枚目のアルバム『Still Dreamin'』では、40年のヒストリー、積み重ねられた音楽的魅力が最新曲という形でアップデートされているのだ。

アルバムラスト12曲目に収録されたのは「10年前の今日のこと」。昨年6月末にリリースしたシングル曲 「Pegasus」のカップリングにも収録されたアルバム・ヴァージョンだ。心にじわっと暖かく染み渡る人間賛歌であり、愛を強く感じるナンバー。ギター弾き語りメインのフォーキーな心情を吐露するリアリティーに富んだ楽曲世界が新鮮な作品だ。

なお、本作のアートワークにおける写真は、フォトグラファー鋤田正義による作品だ。布袋が敬愛するデヴィッド・ボウイを撮影した世界的写真家であり、ギターに興味を持ったきっかけとなったT.REX、マーク・ボランが恍惚な表情でギターを弾くポスターを撮影した方である。

こうして、布袋寅泰にとって思い入れの深い20枚目のアルバム『Still Dreamin'』が完成した。

記憶と記録に残る様々なプロジェクトで課外活動を行いながら、継続的にオリジナル・アルバムをリリースし続けてきた布袋寅泰。しかしながら、まだまだ閉塞感が漂う2022年。布袋寅泰 =“最新のHOTEIが最高のHOTEI”というファンにはおなじみのキャッチコピーの通り、今後、5月からはじまる全国ツアー『HOTEI the LIVE 2022 “Still Dreamin’ Tour”』での、新たな表現の進化を心待ちにしたいと願う。最高のライブを楽しみにしたい。

布袋寅泰オフィシャルサイト

https://jp.hotei.com

音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

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