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「チェッカーズ」「STUSSY」が好き 親世代の文化が若者の「レトロ」に

藤田結子東京大学准教授
親のレコードが家に置いてあるという(写真:Paylessimages/イメージマート)

西武園ゆうえんちのリニューアルオープンや、インスタグラムに投稿されるクリームソーダの写真など、若者の間で「昭和レトロ」の人気が高い。なぜ、若者は自分が経験していない時代の文化に愛着を持つのだろうか。その理由の1つに、「友だち親子」と呼ばれるフラットな親子関係の影響があるようだ。明治大学藤田研究室の学生が行った調査を紹介しよう。

今回調査を担当した吉川璃子、本田幸希(明治大学商学部4年、写真:本人提供)
今回調査を担当した吉川璃子、本田幸希(明治大学商学部4年、写真:本人提供)

◇親が聴くチェッカーズ、中森明菜が好き

2人が実施した調査で、昭和の名曲が好きという話が若者たちから聞かれた。たとえば、TikTokでチェッカーズの「ギザギザハートの子守唄」をカバーしたダンス動画が大流行していて、流行の要因としてクロスディーや加藤乃愛ら、有名インフルエンサーの投稿があげられるという。が、次の話のように、親の影響も小さくないようだ。

「親がチェッカーズ大好きで。カラオケとか、ご飯食べてるときとかにすごい聞いてたから自分も歌うようになっちゃった」(Aさん、21歳女性)

「車で出かけるときの音楽が全部お父さんの選曲だったんだよね。玉置浩二とか、徳永英明とかめっちゃ聞かされたなー」(Bさん、21歳男性)

昭和のポピュラー文化の中でも、親が聴いていた音楽は、日常的に家庭で自然と耳に入ってきたために比較的受容しやすいようだ。Cさん(20歳男性)の場合、次の話のように、直接親から昭和の人気歌手を薦められたという。

「中森明菜とか、ユーミンとかもたくさん聞きますね。親と一緒にYouTube見てるときに。あと、実家に親のCDとかレコードが大量にあって、小さいときはそういうのを聴かされてましたね。めっちゃ楽しかったですけど」

彼らの親が若かった頃(1980~90年代)、レコードにくわえてCDが普及した。「ザ・ベストテン」「ザ・トップテン」などの歌番組も人気を博し、ポピュラー音楽が盛り上がった時代だった。このような時代背景もあって、親が聴く音楽が若者に影響を与えているようだ。

◇親のお下がり 90年代ストリート系ファッションを「古着」に

親のファッションから影響を受け、レトロや古着に興味を持ったという話も聞かれた。2010年代から古着が若者の間で流行っているが、親のお下がりを喜んで着ている若者もいる。たとえばDさん(21歳男性)は、「STUSSYは両親とも好きだったから俺もその影響で好き」と話した。

学生の間では、STUSSYは古着店で過去のシーズンのスウェットやTシャツをよく見かけるブランドだという。90年代は昭和が終わり平成となった時代であるが、親が若かったこの時期の人気ブランドが、今の若者に受け入れられているのである。

お下がりのSTUSSYでコーディネート(右、写真:筆者撮影作成)
お下がりのSTUSSYでコーディネート(右、写真:筆者撮影作成)

また、近年オーバーサイズやビッグシルエットと呼ばれる、通常よりも大きなサイズの服を着るコーディネートが流行した。この流行によって、ストリート・ブランドを好んだ親の服を着やすくなったという。

「お父さんのお下がりの服をもらうこともある。古いけど一周回って着れそうだなって。お父さんのだから、だぼっとオーバーサイズコーデとして着たりする」(Eさん、21歳女性)

流行のスタイルを取り入れながら、お金をかけず、ファストファッションとの差別化も図れる。そんな利点が、親のファッションを取り入れる動機になっている。

このように、音楽やファッションといった親の趣味に触れてきた経験から、80~90年代のコンテンツにノスタルジーを感じるという声も聞かれた。母親がマガジンハウスの女性誌「Olive」(1982年創刊)を愛読していたというFさん(21歳男性)は、こう話した。

「母はオリーブ女子で、渋谷系のスタイルも好きだった。だからフリッパーズの曲を聞くと『こういうの母が好きだったよなー』って母のことを思い出す」

◇曖昧な昭和と平成の境界

以上、学生による調査をみてきたが、若者たちにとって80年代と90年代の境界は曖昧なようだ。本来、「昭和レトロ」に入るのは昭和最後の10年である1980年代までであり、90年代は平成である。だが、若者たちには、自分の親が好んだポピュラー文化に家庭で触れた経験から、80年代~90年代の文化に懐かしさを感じ、レトロとしてくくる傾向がみられた。

さらに、親世代の文化ということにくわえて、メディア環境も関係しているようだ。茨城大学・高野光平教授によると、80年代は、それ以前の時代よりも大量のコンテンツが流通していて、若者がネットで出会いやすい文化だという。時代が新しくなればなるほど、映像や写真が残っていて、誰かがアップロードし、ネットで拡散しやすく、優先的に記憶される(『昭和ノスタルジー解体ー「懐かしさ」はどう作られたのか』晶文社、2018)。

昭和から平成の文化を「レトロ」として好む若者の意識は、親との繋がり、さらにメディア環境などの要因に影響を受けていたといえるだろう。

東京大学准教授

東京都生まれ。専門は文化・メディア研究。東京大学大学院情報学環教員。米国コロンビア大学で修士号(社会学)、英国ロンドン大学で博士号(メディア・コミュニケーション)を取得。参与観察やインタビューを行う「エスノグラフィー」という手法で、日本や海外の文化、メディア、若者、ジェンダー分野のフィールド調査をしている。著書に『文化移民ー越境する日本の若者とメディア』(新曜社、2008)、『ワンオペ育児』(毎日新聞、2017)他。

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