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長友佑都は「次のW杯でも十分に通用する」、名トレーナー木場克己氏が語る日本代表サイドバックの伸びしろ

浅野祐介OneNews編集長

準々決勝でUAEに敗れ、アジアカップ連覇を逃した日本代表。UEA戦の前日会見で、取材陣からの質問に対し、長友佑都が“回答に詰まる”場面があった。

質問の内容は、「ブラジル・ワールドカップ後、何が足りないと感じたか? ここからの4年間をどう過ごしていきたいか?」というものだった。

助け船を出すような形で先に自身に対する質問への回答をしたハビエル・アギーレ監督に続き、沈黙の後、長友は次のように語り出した。

「(アギーレ監督が話をしている間に)いろいろ考えていましたが、ワールドカップの時の心境と、次のワールドカップに向けた心境を語るのは本当に難しいです。そのことについて考えていて、言葉で発するためのエネルギーがかなり必要かなと思うので、ちょっとここでは勘弁してもらえればと。そのエネルギーを使うぐらいなら明日の試合のダッシュ一本にエネルギーを使いたいかなと思う」

「ただ、一つだけ言えることは、いかにチームのために犠牲になれて、チームのために走れるかが今の自分の課題であり、目標。犠牲の精神やチームのためというものが自分の中に本気であるならば、本当に大事なときに最高のパスがきたり、今までミスしていたところがミスではなくなったり、そういうものにつながっていくのかなと思う。だから、明日の試合もチームのために走る」

2018年のロシア・ワールドカップのとき、長友は31歳。「走る」という視点で見れば、27歳で臨んだブラジル・ワールドカップに比べ、年齢的に衰える可能性も否定はできない。

先日、同選手の個人トレーナとしても知られる木場克己氏に、著書「続ける技術、続けさせる技術」(KKベストセラーズ)の新刊発表の際に話を聞く機会があり、長友のメンタル面の変化、サッカー選手としての伸びしろについて、木場氏の考えを聞いた。

ーー昨年から、長友選手は木場さんに敏捷性(アジリティ)を高めるトレーニングを要求していますよね。その理由について、木場さんはどう考えていますか?

年齢ですよね。長友選手は今、28歳。人間にもアスリートにも限界があります。一定の年齢を超えると、年齢を重ねることで敏捷性はどうしても落ちるわけです。長友選手も、体幹だったり動きだったり、負けない体を作り続けてきましたが、昨年、ブラジル・ワールドカップも終わり、次のワールドカップを見据えると、長友選手は31歳になります。次のワールドカップに向けては、体力的にも「維持をしていく」やり方がいいかなと考えています。どうしてもスピードは落ちてきますが、そのスピードを落とさないためには使っていない筋肉を使っていって、アジリティを高めるほうがいいなと。以前、インテルの練習を見にいったのですが、1部練習、2部練習でも、45分間のアジリティのトレーニングを行っていました。当時で言うと、ハビエル・サネッティらベテラン選手を含め、インテルの選手も細かい神経系のトレーニングを行っていて、その時、長友選手は26歳だったから十分に動けていたけど、ふくらはぎの動きは固まりやすかったりするので、前と後ろだけじゃなく、ジグザグやサイドステップなどの動きを増やしていかないと、3年後のワールドカップに向けて難しいかなと思います。逆に言えば、長友選手はフィジカルや持久系の力は持っているので、敏捷性を意識的に高めていけば、31歳でも十分に通用します。

ーー著書のテーマでもある「続ける技術」という点で、長友選手の「継続する力」について、木場さんはどう感じていますか? また、長友選手の今後の伸びしろについて、どう考えているかも教えてください。

このトレーニング、このケアをすることによって自分がどうなっていくか、長友選手はそれを理解していますし、常に目標がある。「目標のために必要だから続けなきゃ」と考え、ゴールに近づくから続けられる。そんな選手に指導者やトレーナーは“変なもの”は出さないですよね。長友選手は、自分にとって必要だと考えたことをやり続けられる選手。それから、伸びしろとしては体も大きくなってきて、“サッカーの体”になってきていると思います。

ーートレーナーとしてはやりがいのある選手ですか?

最初はちょっとうざかったですけどね(笑)。本当にガンガン来て。「こいつ、すげえな」と(笑)。トレーナーとしては、もちろん、とてもやりがいのある選手です。

ーー長友選手と長い付き合いの木場さんから見て、彼が最も成長した部分はどんな点に感じますか?

「自信」をもって何でもやれていますね。インタビューなどコミュニケーションにしても、練習の取り組み方にしても、自信をもって行っています。その証拠というか、最近は聞いてこなくなるというか、自分でこのメニューとこのメニューやれば大丈夫だっていう長友選手のルーティーンになって、そこにいきついたってことは自信がついてきたってことで。あとはピッチの中でも余裕がある。たたかれることもあるけど、余裕をもって接している。選手としても人としても成長していると思います。彼の中のゴールは読めないけど、常に自分の中で試している、挑戦している。こういうことをやって結果が出たとか、常に追い求めている。同時に自分の中で無理はしないように、怪我をしないように、という点を意識していますし、その中で、ここまでの選手になってきているから、これからも夢と希望を、子供にも大人にも与えられるような選手でいてほしいですね。

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ーーありがとうございます。では、ここからは著書について。本書を記そうと考えた理由について教えてください。

これまで、けがの治療やリハビリという点でも、たくさんのトップアスリートを見てきました。東京ガス、今のFC東京ですね、時代からやっていますが、けがを治してからフィジカルコーチにバトンタッチした後に再発する選手もいる。これはトレーナーとしてどうにかしていかなければと考え、具体的にはリハビリの中にトレーニングのメニューを取り入れ、体を7割作ってからフィジカルコーチにバトンタッチする方法をとりました。話を質問に戻すと、けがをしてリハビリをして、その後、「再発してしまう選手」と「活躍する選手」が分かれてくる。

ーーその違いが、本書を記そうと考えた理由につながるわけですね。

はい、そのとおりです。「早く治そう」、「このけがをチャンスに変えよう」、「これを機に別のトレーニングができる」といったふうに意識的にトレーニングを行い、体を作っていこうとする選手ほど活躍する。逆に、トレーナーの指示を待つだけの選手、目的意識のない選手はけがの治りも遅い。目的があるからリハビリのメニューがあるわけで、その選手をピッチに上げるためのメンタル面を含むトレーニングがあります。それを理解して続けられる選手と続けられない選手がいて、それが選手生命にかかわってくる。正直、トレーナーのせいにする選手も中にはいます(苦笑)。そういう選手にさせたくないし、もっとトップに上げてあげたい。そのために何ができるか、自分のトレーナーとしての経験から、トップアスリートとそうでない選手の違いを伝えたほうがよいのではと思い、この本を書こうと考えました。物事への取り組み方や、気づきとして、一般の方を含めて参考にしてもらえる点があればと思っています。

ーーアスリートの「続ける技術」について、技術の「ある」「なし」はどこから生まれてくると分析していますか?

やはり理解できるかどうか。それが自分にとって大事なものか、どうかを理解、判断できる力が大切だと思います。実際にやってみて、必要なければもちろん「いらない」で正解なのですが、もし必要なら「なぜ必要なのか」、それをトレーナーである自分に聞いてほしいし、自分がどうなりたいかという意思表示をしてくれれば、それに対してアドバイスができる。本田(圭佑)選手や長友選手にしても、目標を立ててゴールに突き進んでいくためには一人では無理。例えば僕のような立場の人間を、しっかり味方として取り入れる選手は伸びていきますし、大切なのはそれを続けられるかどうか。いろいろな面で、理解力が大きいですね。

ーーモチベーション維持の方法として、著書では「他人の存在をとことん気にすること」の大切さを説いていますが、木場さんにもそういう存在がいらっしゃるのですか?

対象は…実はいないんです(笑)。正確に言うと、あえて探していません。自分はトレーナーなので、相手、つまり選手個々に合わせる必要があります。例えば、「膝の痛み」一つでもいろいろな種類があるし、膝に対するリハビリがすべてのケースに当てはまるわけではない。そういう意味では臨機応変さというか、柔軟さが大切ですので、本とか師匠とか、そういうふうな情報をあまり入れないようにしています。その人とのやり方とは違うやり方をするんだろうな、と。選手や監督、コーチにもいろいろな人がいて、「怪我をしたのは自分のせいだから」という選手、選手が早くピッチに戻れるようにとトレーナーにはっぱをかける監督もいる。その選手がどうなっていくか、その人に合ったものをずっと作っていたので、今に至ったと思います。こういう仕事があるのは、一人ひとりの選手があって、ということですし、好きなスポーツがあるから。ごめんなさい、質問からだいぶ逸れてしまいましたが、自分はそういう部分に重点を置いています。

ーー木場さんが、体幹を鍛えることの重要性を意識したのはいつ頃からですか?

体幹は、本当にずっと昔からですね。通っていた医療の専門学校にも「体幹」という言葉がすでにあって、腹筋・背筋のトレーニングではなく、「体幹」という場所なんですよね。それを今、「体幹トレーニング」と呼んでいるんですが、「体幹トレーニング」という意味で「体幹」を意識し始めたのは、FC東京の前身、東京ガスのころです。ちょうど福田(健二)選手とか、コンちゃん(今野泰幸)とか、グロインペイン(症候群)、いわゆるスポーツヘルニアが流行っていました。股関節の硬さの問題なのか、なぜここに痛みがくるのか、と原因を考えました。あとは、グラウンドの硬さとか。当然、トレーナーとして、どうしようかと考える。内転筋のストレッチや補強をしましたが、それでも駄目だった。じゃあ、「弱いんじゃないか」と考えました。で、何が弱いのかというと、踏ん張ったときのおしりの筋肉や上半身のブレだったり、それを突き詰めていったら、腰痛を持った選手がヘルニアになっていたことが分かり、腰痛にならないようなストレッチやトレーニングを一度みんなでやろう、ということにしました。そこから体幹トレーニングなどで補おうという形です。グロインペインを予防し、あとは“腰痛予備軍”、腰痛の選手はこっち側のトレーニングとストレッチでしっかりやってあげて、それから送り出して、という流れにしました。大黒(将志)くん、福西(崇史)くんとか、(当時)他のチームだった選手からも話を聞きにくるケースがありました。

ーー著書で「時間は確保するものではなく、生みだすもの」と記されていますが、例えばビジネスマンなど、デスクワークで運動の機会が少ない人たちへアドバイスはありますか?

まずは1分、ストレッチやドローインをするだけでもいい。日常生活の中には、歯を磨く時間、通勤の時間、信号待ちの時間、仕事の合間の時間、などいろいろな時間がありますよね。例えば、信号待ちの時にドローインを意識するだけでも、脳が意識をする。「ちょっとでも健康体になれるのかな」っていう意識をつけてあげることが大切です。どんなに忙しくても、それくらいならどこかの時間で作れますよね。あとは、体重計に毎朝乗るとか、片足を上げて歯磨きをするとか、ちょっとしたきっかけで、健康に目覚める人がいます。そういう小さなきっかけからも変わってくると思います。

ーーこれまで数多くのアスリートを指導されてきた木場さんが考える、肉体的に優れた選手の条件を教えてください。

自分の体、自分の体の弱点、つまり、自分のことを分かっている選手ですね。ここが弱いからこれをやらなきゃいけない、と考えることができる。例えば体を大きくしたくても太らない人もいる。なかなか太らない体質なら、食事の前に動いてカロリーを消費してから食べると胃の状態がよくなるし、効果的に体を大きくすることができる。自分の体の状態を理解し、しっかり考える選手は肉体的に優れた選手だと思います。

ーーでは、ケガをしにくい選手の共通点、特徴はいかがですか?

同じ練習をしているのに自分だけ体が重たいとか、次の日に筋肉痛が出るとか、離脱まではいかないにしろ、年間を通して、どこかの疲れがどこかにくる、ということはあるわけです。腰痛をもっている選手なら股関節にきたり、足首のねんざを繰り返している選手なら膝にきたりとか、そういう原因に該当しそうな部分を含め、「こんな練習をしたらこうなった」、「去年はこういうところに硬さや痛みが出た」といったことをトレーナーや周囲の人間に相談すること、つまり、自分の体をちゃんと知るっていうことがすごく大事。トップレベルで活躍している選手はみんなそうですよね。

ーーそれこそ長友選手のように?

そうですね。長友選手は帰国すると、「体、どうですかね?」と必ず聞いてくる。僕は、その問いにしっかり答えるようにしています。

[撮影]=大根篤徳
[撮影]=大根篤徳

ーーでは最後に、今回の著書の“読みどころ”をお願いします。

「継続は力なり」とよく言いますけど、三日坊主じゃなく、自分が続けられる気持ち、パワーがあれば、それが自信や余裕につながってくるわけで、それが今までなかなかできなかった人に、ちょっとでも、少しでも続ける気持ちを持ってもらえたら、新たな発見が出てくると思いますし、この本をきっかけに、自分の目標に向けて、頑張って「続けて」もらいたいなと思います。

恩師から長友へ!「次のW杯にも通用する」と太鼓判

OneNews編集長

編集者/KKベストセラーズで『Street JACK』などファッション誌の編集者として活動し、その後、株式会社フロムワンで雑誌『ワールドサッカーキング』、Webメディア『サッカーキング』 編集長を務めた。現在は株式会社KADOKAWAに所属。『ウォーカープラス』編集長を卒業後、動画の領域でウォーカー、レタスクラブ、ザテレビジョン、ダ・ヴィンチを担当。2022年3月に無料のプレスリリース配信サービス「PressWalker」をスタートし、同年9月、「OneNews」創刊編集長に就任。

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