子育て世帯を直撃する生活保護の自動車保有問題

公共交通が少ない地域では自動車が移動の手段だが生活保護では保有を認められない

 日々、わたしたちは、シングルマザーと子どもたちを応援する団体として、シングルマザー、シングルマザーになるかもしれない人、そしてときには父子家庭、そしてひとり親の子どもたちの相談を受けている。

 また、シングルマザーキャリア支援プログラムを開催し、就労を応援するとともに、ひとり親の子どもたちの進学を応援する「入学お祝金事業」を実施している。

 東京に事務所はあるのだが、全国から多様な相談の電話がかかってくる。

 その中で、ほんとうにどうやって暮らしを成り立たせているのだろう、と心配になるようなご相談がある。

 毎月5万2000円のみで暮らすAさん

 Aさんは、小学6年生の女の子と暮らしている。以前はフルタイムで仕事をしていたがうつ病で仕事ができなくなり、無職になった。家は親族の持家に住んでいるが、ご親族は遠くにいて支援はなく、収入は、児童扶養手当と児童手当、5万2000円(当時)だけの収入である。

 生活保護を申請に行ったが、自動車を処分しなさいと指導されてあきらめた。

 フードバンクは利用している。食べるものにも事欠いていて、どうしたらいいのだろうか…。

 小さな声で、話してくれた話はそんなご相談だった。

 わたしたちは、相談を受けて、まずは、米など食料品のストックから送れることを伝えた。そして今後は、生活保護を受けることを提案した。しかし、生活保護の窓口では、自動車を処分するように言われたとのこと。生活保護申請は拒否された。それでも、わたしたちが一緒にいけば、申請はできる可能性が高いと伝え続けたが、「それをお願いしているわけではありません」と言われた。

 それから何度も食の支援をしながら、生活保護の申請についてもひとつの選択肢として提案してみたが、気持ちを変えることはできなかった。

 Aさんと娘さんは、命にかかわるような危険な貧困状態にあったと思う。しかし、公的支援は、児童扶養手当と児童手当5万2000円のみだった。2年後もなんとかAさんと子どもは、命をつないでいる。

 しかし、Aさんは、東京在住であれば、ほぼ生活保護にがすぐに受理された状況だった。何が違うのか。

 生活保護受給者は自動車保有を原則認められていない

 

 自動車を保有している人が、生活保護の申請をしようとすると、処分・売却を指導される。自動車は「資産」だからだ。自動車保有を認められるのは、「公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住する者等が自動車により通勤する場合」「障害者が通院・通所・通学のために必要な場合」などが認められている。

 そのために自動車をもっていて生活保護を申請しようかと思う人は、自動車を処分することをためらい、生活保護申請をあきらめる。この生活保護の「自動車保有問題」は深刻な影響を与えている。

 

 地方で子どもを育てていると、自動車をもっていることは必須になる。ある中型都市の調査によると9割以上の母子世帯の母親は、運転免許をもっているという。

 そして、車は、買い物、自分の仕事、子どもの通園・通学の送迎で使うと答えているそうだ。

 車をもっていない人は、通勤の足がないので、仕事もバスで通えるところでしか探せない。バスが1時間に一本もない地域もある。

 私事で恐縮だが、わたしは、東日本大震災後、何度も東北沿岸部を訪れ、被災したシングルマザー支援を行ってきた。しかし、運転免許を持たないわたしは、どんなときも、現地の誰かに車に乗せてもらわねばならなかったのである。東北でも、熊本でもわたしは移動という点ではまったく能力がなく、人の手を借りなければならなかった。

 自動車をもっていない人は、ご近所に頼むこともできるかもしれない。でもこれが毎日できるだろうか。それはできないだろう。

 保育園の通所にも不便で、郊外のショッピングモールにも行けない、子どもの部活の送迎もできず、また緊急時に病気の対応などもできない。

 自動車保有問題の結果、何が起こっているのか。

 母子世帯の保護率の地方格差は31倍

 次の表は、都道府県・政令指定都市別にみた母子世帯の世帯保護率(2015年度、1カ月平均)(推計値)である。

 都道府県別の母子世帯の世帯保護率を見ると、東京都は19%に近い世帯保護率である。一方、富山県は、わずか0.61%の世帯保護率である。

 

都道府県・政令指定都市別にみた母子世帯の世帯保護率(2015年度、1カ月平均)

    

     世帯保護率(%)

  全国  13.83%

1 東京都 18.87%

2 徳島県 11.12%

3 埼玉県 9.00%

~        

10 福岡県 7.10%

~       

20 神奈川県 3.93%

~       

30 宮城県 3.00%  

~       

46 石川県 0.90%

47 富山県 0.61%

(藤原千沙「地方における母子世帯の暮らしと生活保護ー自動車の保有・使用の視点から」『月刊自治研』2017.7  vol59 no.695)

 同じ制度を利用して、31倍もの差がある。   

 政令指定都市でみると、京都市は35.48%の世帯保護率であり、浜松市は8.15%の世帯保護率である。

 

 東京都と富山県の差は30倍以上の差となっている。もちろん、生活保護運用における地方格差が影響しているだろう。しかし、それと同時に、自動車保有の問題が大きく作用していると思われる。

 政令指定都市で、保護率の高い地域は公共交通が発達した地域なのである。

 同じ制度であるにもかかわらず、これほどに地域格差が出ていいのだろうか。

 今すべきことはこの問題について、データをさらに集めながら、生活保護の自動車保有の問題を正面からとりあげるべきなのではないだろうか。

 この10数年、生活保護制度をめぐる問題は、政治的にも社会的にも大きく注目されてきた。

 生活保護を受けられる規準以下で暮らしている、多くの人々が、生活保護申請をためらうようになっている。わたしたちは、相談の中で、Aさん以外にも生活保護をためらう人々と会い、まさに命の危険を感じながら、支援を続けてきている。

 その理由をわたしは扶養照会の問題、自動車保有の問題、水際作戦の問題、スティグマの問題の4つだと指摘してきた。(拙著『ひとり親家庭』岩波書店、2014年)しかし、私自身、都道府県、政令指定都市の世帯保護率の格差が31倍にもなっていることを知らず、正直驚いている。

 今、生活扶助規準や母子加算の削減が提案されようとしている。重大な問題だ。

 同時に、地方から、聞き取れないような声で相談してくる、Aさんのような人の窮状にも、目を向けるべきである。

 自動車保有の問題は見過ごしてはならない大きな影響を与えている。