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町会って何のための組織なの? 存続の危機から見えてきた「生活に不可欠な機能」と「時代に合った運営」

阿部光平ライター/『IN&OUT -ハコダテとヒト-』編集長

少子高齢化が進むなかで、地方では町会の存続が危ぶまれています。しかし、その町に住んでいる当事者であっても、町会の役割はあまり知られていないのが実情ではないでしょうか。

町会がなくなってしまうと、町にはどんな影響があるのか。北海道函館市の青柳町で、共に30代という若さで町会長を務める蒲生寛之さんと、副会長の岡本啓吾さんにお話を伺いました。

「町会って何のための組織なの?」という素朴な疑問から、これから全国的な課題となるであろう維持・管理の現状、そして活動のなかで見えてきた新しい可能性まで、町会の難しさと面白さが入り混じったリアルな現場のお話です。

蒲生寛之さん(左)

函館市出身。20歳で地元を離れ、バンド活動をしながら東京や海外での生活を送る。2013年にUターンをして、家業である不動産会社『蒲生商事』で宅建士として仕事を開始。函館旧市街の空き家再生や移住相談、ゲストハウス経営を手がける『箱バル不動産』の代表としても活躍している。

岡本啓吾さん(右)

函館市出身。大学進学を機に上京し、東京の広告代理店に勤務。2010年にUターンし、現在は市内にある商業施設『シエスタハコダテ』の統括責任者を務める。社会的に価値を見出されていない資源を活用し、地域で新たな仕組みや商品を生み出す『Local Revolution』の代表としても活躍。

大荒れの幕開けとなった町会活動

——最初に、おふたりが町会に関わることになったきっかけを教えてください。

蒲生:Uターンで函館に帰ってきたときに、町会の班長さんが家に来たんですよ。そこで話を聞いて町会に入りました。正直言って、町会がどんな組織なのかわかっていなかったし、「なんのために町会費を払うんだろう?」という疑問もあったんですけど、まぁそういうものなのかなって感じで。

岡本:僕も同じような感じですね。青柳町に引っ越してきて、なんかよくわからないまま町会費を払っているだけでした。

——そこから町会長・副会長になるまでには、どのような経緯があったのでしょうか?

蒲生:たしか2019年くらいだったと思うんですけど、回覧板に餅つき大会のお知らせと、町会からの手紙が入ってたんですよ。「役員の病気や高齢化で町会の維持が困難な状況です。このままだと成り立たなくなるので、助けを求めています」みたいな内容だったんですけど。それを見て「何が起きてるんだろう?」と興味を持って、まずは餅つきに行ってみることにしたんです。

——それまでも町会のイベントには参加していたんですか?

蒲生:まったくしていなくて、餅つきが初めてでした。そこで手紙を読みましたって話をしたら、当時の町会長の方から「とりあえず翌週に会議があるから来てほしい」って言われて。その流れで「役員もお願いしたい」みたいな話になったんですよ。

——え、初めて行った餅つき大会の場で?

蒲生:そうなんですよ(笑)。それだけ切羽詰まってたんだと思うんですけど。それからしばらくして役員会に出てみたら、手紙の内容にもあった通り、本当に高齢の方が3、4人しかいない状態で。これは確かに存続の危機なんだろうなと実感しました。

その時点で、前会長が僕に役割を引き継ぎたい気持ちがあることは感じていたんですよね。他に若い人がいないから、それしか選択肢がなかったんだと思いますけど。僕としても、ほとんど人が関わっていないなら、別に難しいことでもないだろうという気持ちでいました。

——町会長といっても、そんなに重要な役割はないんじゃないかと。

蒲生:だから、可能性を感じたところもあったんですよね。自分が不動産の仕事を通じて、地域に根ざした活動や、民間まちづくりの勉強をしてきたので、町会っていう仕組みをリノベーションしたら今の時代に合った組織に変えられそうだなって。それを自分たちの世代でやれるチャンスかもしれないと思ったんです。

ただ、いろいろと話を聞いたり調べていくなかで、どうやら高齢化だけでなく、いろんな問題を抱えていることも見えてきて。本当に町会長をやるなら町会をゼロから立て直すくらいの意識じゃないとダメだし、そのためには同志が必要だと思いました。それで岡本さんをはじめとする、町内の同世代の人たちに声をかけたんです。「今度、総会っていうのがあるから一回来てみてくれませんか?」って。

——岡本さんは、蒲生さんに声をかけられたときのことを覚えていますか?

岡本:覚えてますね。僕が青柳町に引っ越してきたのは2020年で、家を建てたのが蒲生さんの家の近所だったんですよ。それで、知り合いからもらったホウレン草をお裾分けしに行ったときに、町会の現状や蒲生さんが町会長になるかもしれないという話を聞きました。

僕も町会には入っていたものの、何のためにある組織なのかは理解できていなくて。だけど、家を建てたからには青柳町に根を下ろして生きていくつもりだったので、地域コミュニティに入れてもらいたい気持ちがあったんです。そんなときに蒲生さんから「高齢化によって維持が難しくなってきてるのが現状だけど、我々のような子育て世代が関わって、町会のあり方や地域の可能性を考えるのは面白いと思う」という話を聞いて、心から賛同しました。

——町会というコミュニティに可能性を感じたんですね。

岡本:まず蒲生さんが町会長になるってことが、めちゃくちゃ面白いと思ったんですよ。僕はずっと蒲生さんが函館旧市街でやっている活動をリスペクトしていたので、一緒に何かできることにワクワクしました。だから、自分にできることは何でも協力しようと思って。

それで、お誘いいただいた総会に初めて参加したんですけど、それがもう大荒れだったんですよね。あちこちから怒号が飛び交うような、とんでもない状況で(笑)。

——えぇ、何が起こったんですか?

蒲生:僕の他に、もうひとり同じタイミングで役員になった若い方がいて、その人が議長をやることになったんです。人手不足だからってことで頼まれて。僕もその人もまだ町会のことがよくわかってなかったんですけど、ベテランの方から「資料を読んでくれれば大丈夫」って言われてたんですよね。

だけど、いざ蓋を開けてみたら、前年までの活動に対する厳しい意見が飛んできて。僕らは急にそこに立たされていたので、質疑に対応しきれませんでした。それでもう場が荒れちゃって。結局は、ずっと町会に参加している年配の方が収めてくれたんですけど、若い世代の人に町会を知ってもらおうと思って岡本さんたちに声をかけたのに、自分も想像していなかったような展開になっちゃったんですよね。みんなには申し訳ない気持ちで一杯でした。

岡本:大波乱の幕開けでしたよね(笑)。でも、あの場を体験して思ったんです。実際に高齢化も進んでいるし、今誰かが引き継がないと、本当に存続が難しいんだろうなって。

町会役員って仕事でもプライベートでもなくて、仕事や子育てをしながら業務をしなきゃいけないので、それだけでまず大変じゃないですか。役員報酬があるわけでもないし。だけど、僕的には町会という未知なるステージで、蒲生さんと一緒にイチからドラマを作っていくのは面白そうだなという気持ちが大きかったので役員になりました。

防災・防犯と、街路灯の維持。町会が担う知られざる機能

——町会長を引き継ぐ際に、前会長から「町会とは、こういうものである」とか「町会長の役割について」というお話はあったんですか?

蒲生:いや、特になかったですね。むしろ、何をすべきなのか聞いたら、「何もやることないよ」って言われていたので(笑)。

——では、町会についてイチから勉強するというスタートだったんですね。

蒲生:あんまり頑張って勉強するって感じではなかったですね。というのも、やっぱり生活があるから、仕事も子育てもないがしろにはできないじゃないですか。新たに役員になってくれた人たちも子育て世代が多かったので、そういう人たちでも回していける仕組みを考えないとダメだと思ったんです。だから、あんまり町会のことだけを頑張りすぎないっていうのは気をつけています。困ったことがあれば、その都度調べたり、誰かに聞いたりしながら進めるようにしていますね。

岡本:頑張りすぎないようにしてると言いつつ、蒲生さんを見てると絶対に大変なんですよ。実際にやらなきゃいけないこともあるので。だから、マジですごいことだと思いますね、仕事も子育てもしながら町会長を務めるっていうのは。

——会長と副会長の役割を経験してみて、今は町会をどのようなものだと捉えていますか?

岡本:最初の総会が終わって、初めて役員会に出席させてもらったときに、蒲生さんがみんなに聞いたんですよ。「町会って、そもそも何のためにあるべきなんでしょうか?」って。だけど、そこでは誰からも明確な答えが出なくて。きっと、そういう問い自体が今までなかったと思うんですよね。あることが当たり前の組織になっていたから。

だから、それを考えていくのが、大きなミッションだと思っています。高齢化によって町会が成り立たなくなるというのは、きっとこれから全国的にも問題になってくることだと思うので。

——そう考えると、函館旧市街は町会の課題先進地域でもあるんでしょうね。

岡本:そう思います。蒲生さんの話にあったように、まずは町会が無理なく回っていく仕組みを作ることに取り組んでいるんですけど、やればやるほど課題も出てくるんですよね。結局は、町会も人と人とのコミュニティなので、個々の感情やわだかまりもありますし。

蒲生:僕は、町会の一番大切な機能は防災・防犯じゃないかなと思っています。そう考えるようになったきっかけは、荒れた総会でのやりとりだったんですよ。ある人が「あいつは谷地頭温泉で自分の悪口を言ってた」と話してて。その発言を聞いて、ハッとしたんです。

僕らってネット上で口論になったり、批判されることはあっても、地域という物理空間のなかで悪口を言い合うことなんてほぼないじゃないですか。それって、物理的な関係性が薄れてるってことでもあると思うんですよ。

——物理的な世界に生きているけど、関係性はネット上のほうが強くなっていると。

蒲生:そうそう。つまり、ネットが遮断されたら、関係性ごと断たれてしまう可能性があるってことじゃないですか。それって危ういよなって。

例えば、災害時に避難する場合、普段から近所の人たちと顔を合わせて挨拶する関係性があれば、「あの人がいない」ってことに気づけると思うんです。もっと日常的なことで言うと、子どもが学校から帰ってこないときに、「うちの子、見ませんでしたか?」って聞ける人がいるかどうかって大事じゃないですか。そういう物理的な関係性があることの安心感って、バカにできないよなと思ってて。

——確かに近所の人たちとの関係性があるのは心強いし、それは防災・防犯の機能にも繋がっていきますね。

蒲生:あと、これはできれば変えていきたいんですけど、街路灯の電気代や修理費って、なぜか市のお金ではなく、町会費でまかなわれているんですよ。補助金もついてはいるんですけど。治安を守るための機能なんだから、そういうところには税金が使われてほしいなと思ってます。

——じゃあ、町会が維持できなくなったら、街灯も消えてしまうってことですか。

蒲生:そうなんですよ。おかしな話だと思うんですけど、今のところ町会で担っていくしかなくて。なので、町会の規模や予算が縮小していくなかでも、防災・防犯と街路灯という2つの機能は残していかなきゃいけないと思っています。

——生活に直結することですからね。

蒲生:そうやって誰かがやらなきゃいけないことはあるんですけど、それだけだと町会って楽しくないじゃないですか。だから、自分たちも楽しめるような活動にはしていきたいなと。

前に役員のひとりが「町会ってサブスクですよね」って言ってたんですよ。そうやって捉えると、たまにしか使わないものを、共有の資産として町会館に置いておくのもいいかなと思っています。例えば、ミシンって常に使うものじゃないけど、入園・入学の準備で必要だったりするじゃないですか。そういうものが町会館にあって、町会に入っている人はサブスク的に使えるってなると、サステナブルだし便利かなと。

——そういうわかりやすい機能があると、町会に興味を持ってくれる人も増えそうですね。

蒲生:現状だと町会に入るメリットって見えにくいんですよ。でも、それを作っていけたら、月に数百円の町会費を払う価値を感じてもらえると思うんですよね。町会館にWi-Fiがあれば、ネットを使って勉強したい子どもや、経済的な理由でネット契約をできない人にも使ってもらえる場所になるだろうし。

函館市が出しているガイドラインにも、町会には福祉的な役割があるって書かれているんです。要するに、「みんなでお金を出し合って地域で助け合っていきましょう」っていうのが町会なんだと思います。そういうものにしていかないと、誰にとっても必要ないものになってしまいますよね。

——青柳町会館では、『無印良品』の移動販売やバザーなども行われています。こうしたイベントも町会の周知と、活動内容を広げるための取り組みなのでしょうか。

岡本:そうですね。もともと町会館は町内の方々が囲碁をしたり、カラオケをしたり、お葬式などにも使われていたらしくて。だけど、コロナの影響で人が集まるという用途には使われなくなってしまったんですよね。

町会を維持していくためには、一人でも多くの人に加入してもらったり、活動を知ってもらう必要があるじゃないですか。そのきっかけのひとつとして、イベントを開催しています。

——僕も無印良品の移動販売に来たことがあるんですけど、すごい賑わいですよね。

岡本:無印良品の移動販売については、僕がシエスタハコダテ(無印良品が入っている商業施設)で働いているのもあって、実験的にスタートしました。青柳町はコンビニがないし、坂が多くて冬場の買い物が大変なんですよ。

そういう方のために企画したら、朝からお年寄りの方々が何十人も並んでくださって。カレーなどの保存食をたくさん買っていってくれる方がいたり、「助かるわー!」って声もあって、やっぱりニーズがあることを実感しましたね。若い方もたくさん来てくださって、初回のときには3組のご家族が町会に入ってくれたんですよ。

——すごい!

蒲生:岡本さんたちが、一生懸命お客さんに声をかけてくれたんですよ。

岡本:レジで並んでる間に、お茶を持って話しかけに行ったりしてましたね(笑)。

岡本:2回目の開催はクリスマスイヴだったので、1階で無印良品の移動販売をやって、2階では青柳町の老人会の方々が子どもたちの遊べるスペースを作ってくれました。ちょっとしたプレゼントも用意して。

そこも大盛況で、普段は人のいない町会館が学童みたいに賑やかだったんですよ。もう、そこら中で子どもたちが走り回ってて。それを楽しそうに老人会の方々が眺めてたり、町内に住むお母さん同士のコミュニティも生まれたりして、すごくいい光景でした。

蒲生:暇な時間帯には老人会の方々が、子ども用の的当てをやったりしててね。あれもいい光景でしたね。

岡本:あれはきっと町会館という地域に根ざした場所で、日常的に顔を合わせられる距離感の人たちが集まったからこそ生まれた光景ですよね。

蒲生:たぶん、町会ってコミュニケーションの発生装置であるべきなんですよ。建物がという意味ではなく、イベントや清掃活動を通して「町内の人たちが集まる場」そのものが。

餅つき大会も、みんなで餅を食べることだけが目的ではなくて、裏テーマとしては町内の人たちが顔を合わせて、言葉を交わすことなんだと思います。それも防災・防犯に繋がっていく話ですけど。ただし、若者だけとか、高齢者だけという世代間断絶が起きると、SNS上の関係性と変わらなくなっちゃうから、できるだけで誰でも来られるような企画が必要なんでしょうね。

——世代間を超えて交流できる場って、他にはあまりないから新鮮ですよね。僕も町会のイベントに来ると、「こんなにいろんな人たちが住んでる町なんだ」と実感させられます。

町会館がなくても、町会は維持できるのか?

——お話を伺っていると、改めて町会という場が持つ可能性を感じます。しかし、活動の拠点である町会館の維持にも大きなハードルがあるそうですね。

蒲生:僕も調べてみてわかったんですけど、町会って任意団体なんですよ。だけど、青柳町の場合は町会館の所有権が個人名義で、土地は借地で建物と一緒に売却はできないという複雑な契約になっていて。

この状況の何が厄介かというと、借地契約をするには、まず契約者がいて、連帯保証人も必要になります。その契約を個人名義でやるということは、地代の支払いが滞った際の請求書が連帯保証人に送られることになるわけです。そこでも支払えないと、原状回復して土地を返すことになります。そうなった場合、町会館を解体する費用も個人が背負うことになるんですよ。

——それは個人で負うには重すぎる責任ですね。

蒲生:だから、まずは町会を法人化することにしました。これは全国的にそうなんですけど、町会館を法人として所有することを目的にした、認可地縁団体という法人格が認められているんです。

それを最初の1年でやったんですけど、やっぱり連帯保証人だけは個人名が必要ということになって。試しに町会館の解体費用を見積もってもらったら、500万円だったんですよ。そこまでのリスクがある契約に個人で判子を押すのはあまりに責任が重いから、どうしようと思って。

岡本:連帯保証人になるのは会長なのか、副会長なのか、そもそも個人が金銭債務を引き受けるべきなのかという話を役員会でしたんですけど、誰も解決策を見出せなかったんですよね。だから、町会でアンケートをとることにしたんです。

蒲生:アンケートをとるにあたって、まずは町会館の土地が借地契約になっていることや、建物を解体するためには500万円の費用がかかること、その負担を個人が負う可能性があるという事実を伝えました。その上で、役員だけではアイデアが出ないので、みなさんの意見を聞かせてくださいと呼びかけたんです。

具体的には「町会館を所有すること」と「町会を存続させること」を切り分けて考えたいという提案をしました。今は遊休不動産がいくらでもあるので、それを活用して町会を続けていくこともできると思うんです。だから、現状の問題をクリアするために会館の所有権を手放して、賃貸の拠点で活動する方向も模索してみませんかって。

——かなり思い切った問いかけですよね。賛否両論が巻き起こりそうな。

岡本:なので、伝え方はなるべく丁寧に、誤解を与えないように注意しました。青柳町会館は、40年前に有志の方々が寄付をして作った建物なんですよ。だから、思い入れのある人や、これまでずっと町会費を支払ってきた人から「若い世代が勝手に壊そうとしてる」という反感を買う可能性もあるだろうと覚悟はしていました。

蒲生:だけど、結果的には、ほとんどの人が町会館を手放すのに賛成だったんです。アンケートに答えてくれた方の9割くらいが。

——役員の方々と同じような問題意識を持った人が多かったんですね。

岡本:アンケートをとるまでの期間は精神的にもキツかったです。自分たちだけではどうしようもなくて、市にも相談したんですけど、やっぱり解決策は見つからなくて。ふたりで絶望してましたよね(笑)。

蒲生:精神的にけっこうヤバかったよね。頭に血が上るようなことも多かったし。そもそも町会って暮らしを豊かにするために作られた仕組みのはずなのに、誰かが不幸になるくらいなら消滅したほうがいいんじゃないかと思ったりもして(笑)。

岡本:これだけの苦労を本にまとめたら、500万円くらい稼げないかなって話もしましたよね(笑)。いろんなことを調べたし、辛い経験もしたから、町会の存続に困ったときに読むガイドブックを作ろうかって。

——需要はありそうですけどね(笑)。だけど、建物の所有権や借地契約の話って、蒲生さんが不動産業に携わっているからこそ気づけたことですよね。

岡本:いや、本当に。蒲生さんがいなかったらどうなってるかわからないですよ。

蒲生:青柳町会に関わった意味なんて、最初はほとんどなかったんですよ。でも、いろんな体験をするなかで、ここは最先端の地域コミュニティがある町だなと思うようになりました。家や学校や職場以外にも、地域の豊かなコミュニケーションがある町なんだなって。

そういう認識が広がっていけば、この町で暮らしてみたい人も増えると思うんです。そこまでいけたら、自分の商売にもプラスの影響があるかもしれないなと思っています。

——約9割の方が「町会館がなくても、町会活動を維持していこう」という意見だったとのことですが、この先はどんなことに取り組んでいく予定でしょうか?

蒲生:建物の解体費用が徐々に高騰化していることと、人口が減少していることを考えると、会館は一刻も早く解体すべきだと考えています。

岡本:だから、500万円を貯めるのが最優先事項なんですけど、手段についてはまだ見つかっていないのが正直なところです。

蒲生:一応、仕組みが整っている手段でいうと、貸館収入というのはあります。要するに場所貸しですね。ただ、貸館収入を増やしていくにしても、その分の労力が必要じゃないですか。そこまでの労力を町会活動にかけられる人は、少なくとも役員にはいないんですよね。みんな仕事や子育てがあるなかで、無理もさせたくないですし。

——他に収入を増やす方法としては、町会に入ってくれる人を増やすとか、町会費を上げるってことですよね。

蒲生:そうなんですよ。あとは、奇跡的にたくさんの寄付金が集まるとかね。建物の売却って方法もあるかもしれないけど、町会以外の使用目的だと借地料は上がるし、名義変更にも手数料がかかるし、構造的にも店舗や住居にするのは難しいような気がしています。

「こんな町にしたい」を実現できる町会であるために

——町会の活動を通じて、町や暮らしに対する意識の変化はありますか?

岡本:僕らが普通に生活している裏には、いろんな問題やたくさんの人の支えがあることを知って、町に対する当事者意識が高まりました。街路灯が毎日ついてるのも当たり前じゃないとわかっただけでも、町会に関わってよかったなと思います。

蒲生:町会に関わるようになってから、顔見知りが増えましたね。それも今までは出会わなかった人たちが。まだまだ解決しなくてはいけない問題もある一方で、新しい繋がりが増えることによって、防災・防犯という目的も少しずつ果たせるようになってきてると思います。

そういういい部分があった反面、町会に関わったことで下手したら町のことを嫌いになりそうな瞬間もありました。楽しいこともあるけど、どうしても嫌なことのほうが心に残っちゃったりするので。

——あぁ、そうですよね。そこをなんとか踏みとどまれているのは、なぜなのでしょう?

蒲生:役員のみなさんのお陰ですね。キツイ言葉に傷つくこともあるんですけど、役員グループで議論すると安心できるんですよ。そうすることで、まだまだやれるって希望を持てるし、嫌なことがあってもそれを変えていきたいって気持ちになります。今の役員の人たちがいなかったら、ここまで真剣に町と向き合えていなかったと思いますね。

岡本:そもそも町会の役員って、イベントのときにまとめて買い物をするお店だったり、町会館の修理を頼まれる大工さんだったり、町会活動によって何かしら利益を得られる人が担っていたんだと思います。でも、今は役員をやることでメリットがある人が少ないのでボランティアでしかないんですよ。

「町をよくしたい」という想いがある人に甘えて、役員の任務を委ねるのは持続可能な体制じゃありません。僕らも、それぞれに得るものを見つけないと続けていけないなって悩むこともありますから。だけど、町会をどんな形で残していくかを考えるのは、僕らの世代の使命でもあると思っています。どこまでやれるかはわかりませんけど。

蒲生:「こんな町であるべき」って考えを押し付けられるのは嫌じゃないですか。そうなると誰も近づきたくないと思うんです。だから、僕らは「こんな町にしたい」というのを実現できる町会を作って、積極的に関わってくれる人を増やしていきたいですね。

岡本:イベントで人を集めることが町の活性化ではないんですよ。町が本当の意味でよくなっていくためには、古き良きものは残しつつ、今の時代に合っていないものは変えていく必要もあると思っています。

町会活性化って、いろんなところで議論されてますけど、薄っぺらく感じちゃうことが多いんですよね。そんな議論をしてるくらいなら、実際に現場で人と向き合ってみなよって。

蒲生:ちょっとしたことでも、話をしに行ったら1時間は覚悟しなきゃいけないからね(笑)。その大変さは、たぶん議論には上がらないよね。

——それは、現場に立っているからこそ感じられる町会のリアルな側面ですね。

蒲生:今まで自分が見てきた地域コミュニティって、「考えが近い人たちが集まっている場所」だったんですよ。それって共感できることが多くて、楽じゃないですか。

でも、町会って「住んでいる場所が近い人たちが集まっている場所」だから、意見もまとまりにくいし大変なんです。ただ、距離が近いからこそ得られるものに対する興味も捨てきれなくて。そういう意味では、僕が町会でやっていることは、地域コミュニティの新たな可能性を探す研究なのかもしれません。

——なるほど。その先に想像していなかった新しい価値が見つかるかもしれないですもんね。

蒲生:そういう可能性を感じているから、続けられている部分はあると思います。

——おふたりの話を聞いていると「町会って面白そうだな」と思うし、「仲間に入りたい」という気持ちになりますね。青柳町民であることが、誇らしくなるインタビューでした。ありがとうございます。

蒲生:それはよかった。ちょっとずつでも、興味を持ってくれる人が増えたら嬉しいですね。

岡本:そうですね。青柳町って、本当に面白い人たちがたくさんいますから。

文章:阿部 光平 (IN&OUT -ハコダテとヒト-

写真:土田 凌

ライター/『IN&OUT -ハコダテとヒト-』編集長

北海道函館市生まれ。大学卒業を機に、5大陸を巡る世界一周の旅に出発。帰国後、フリーライターとして旅行誌等で執筆活動を始める。現在は雑誌やウェブ媒体で、旅行、音楽、企業PRなど様々なジャンルの取材記事を作成。東京で子育てをするなかで移住を考えるようになり、仲間と共にローカルメディア『IN&OUT –ハコダテとヒト-』【http://inandout-hakodate.com】を設立した。2021年3月に函館へUターンした後は、『北海道新聞』でエッセイの連載や、『FMいるか』でのレギュラー出演なども行っている。

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