習近平氏は「不運な」指導者?方向性見えず、強まる統制 中国分析40年の研究者が抱く危惧【中国の今を語る③】
「父親が中国共産党革命に参加した習近平総書記(国家主席)は『創業家一族』として大変な決意と迫力で反腐敗闘争を展開し党内の政敵を打倒した。一方で、集団指導体制による分業の弊害でさまざまな領域で汚職が深刻化しており、多くの党員は、1人に権力を集中させることで解決すべきと考えた。この二つが習氏による『1強体制』が生まれた要因だ」 【画像】「英スパイ夫婦」を摘発 MI6関係者から飲食や観光で便宜を受け…妻は中国政府の重要部署に
約40年間にわたり、中国の政治や外交を第一線で研究し続けてきた高原明生・東京女子大特別客員教授が習指導部の思考回路を分析した。(聞き手・共同通信前中国総局記者 大熊雄一郎) ▽党内分裂 胡錦濤前指導部は2期10年続いたが、その後期の2008年に米国発の世界金融危機が起きて、中国ではチャイナモデルが世界を席巻するという機運が盛り上がった。中国で経済改革や政治改革などもはや不要で、外交は強気でいいという声が高まった。一方で政治改革を進めないと経済改革は貫徹できないという幹部もおり、真っ向から対立した。改革を進めるべきか否か、中国の将来にとって重要な命題について激しい論争が噴出した。 そういう党内分裂の状況下で習氏はトップのバトンを渡された。強い人物が党をまとめることへの期待もあった。ところが習氏が明確な方向性を示せているかというと、うまくできていない。論争は抑えつけられ、水面下でしか議論できなくなった。
▽国家安全観 習氏はある意味、運が悪かった。経済が減速し、環境問題が深刻化したタイミングでトップに立った。彼は歴史的な文脈で自身の政権を捉えようとし、毛沢東は民族を立ち上がらせ、鄧小平は豊かにし、自分は強くするのだと考えた。 そこで国内の治安と対外的な国家の安全を合わせた「総体的国家安全観」を打ち出した。習氏が経済発展より国家の安全を優先すると言ったことはないとみられる。ただ邦人拘束など、外国人からすれば自ら市場開放の足を引っ張るような治安対策を行っているように見える。 国家の安全を重視しているのは間違いないが、おそらく習氏には経済発展の順位を下げているという自覚はない。安全保障の観点から対米依存を減らしながらも、米国との協力は大切だと考えている。 総体的国家安全観によれば、最優先は政権の安全。政権の安泰を守るため社会統制を強化しており、国民は相当息苦しいだろう。新型コロナウイルスの感染を阻止するために地方の工場が封鎖された際、不満を爆発させた従業員が一斉に逃げ出す騒ぎがあった。多くの人が同時に行動を取ればいくら共産党でも軍でも止められない。