習近平氏は「不運な」指導者?方向性見えず、強まる統制 中国分析40年の研究者が抱く危惧【中国の今を語る③】
安定を実現するのは良いことだが、習氏の場合は方法論がおかしい。「同質化」を進める。新疆ウイグル自治区やチベット自治区、香港でも(多様性を排除し)漢族や大陸の政治体制との同質化を図った。力で不満を抑えつければ短期的な安定は実現できるだろうが、長期的にはどうだろうか。 ▽対米競争というレンズ 国際秩序は本来、ルールや制度、価値観により形成されるが、中国が重視しているのは主に力の分配。「米国の一極支配から多極化を目指す」というのは、力の分配を変えたいからだ。中国の影響力を高めたいと考えている。メディア、言論の世界においても、自分たちは発言力がないと思い込んでいる。 米国とは戦略的競争に入ったとの自覚があるものの、当面は関係を安定させて、その利益を得ようとしている。米国への警戒感が強いのは間違いない。いつか自分たちの政権を転覆させようとしているという強迫観念が強い。 中国は世界の何を見るにも対米競争というレンズを通すようになった。対米関係が厳しい局面下で、日本と事を構えるのは有利ではない。対日関係を安定させるために「戦略的互恵関係」の枠組みを使っているのだろう。
沖縄県・尖閣諸島周辺海域や台湾海峡、南シナ海での中国の行動は全て日本の安全保障に関わる。近年、尖閣周辺に船を出してきたのは中国で、日本人が警戒するのは当然。もめ事があっても、手を出してはだめだというのが、日本が過去の戦争で得た教訓。船を出すなとしつこく言わなければならない。日本は中国の実力行使を抑止し、したたかな外交を実践しないと危うい。 ▽日本は研究の先頭に 私が中国の研究を始めた1980年代は日中友好の時代で、中国に行くと大歓迎された。政治も経済も良くなると中国人自身も思っていた。貧しかったが、明るくて幸せな時代だった。1989年に学生たちの民主化要求運動が武力弾圧されたいわゆる天安門事件で局面は変わり、政治統制が再び強化された。 中国を訪れる機会が増えれば、社会に対する理解が深まる。昔は中国に行けず、政策を追いかけて、それが実践されていると思い込む研究者もいたが、政策とその執行は異なることが分かってきた。その意味でも(反スパイ法などで)今後現場に行けなくなると困る。