なぜ今、企業経営に「倫理」が求められるのか 「パーパス経営」の理想と現実をつなぐ判断軸
■ルールからプリンシプルへ 近年、金融の分野では「ルールベースからプリンシプルベースへ」が世界的な潮流となっている。VUCA時代には、あらゆることを想定してルールで縛るより、各事業者がプリンシプルに従って正しく判断させるほうが、はるかに実効力があるからだ。 普通の社会人であれば、善悪の判断がぶれることは、まずないだろう。しかし、厄介なのは「グレーゾーン」だ。何が正しいのかは、はっきりしない。 リスクとリターンは、コインの両面だ。リスクを避け続けていると、リターンはどんどん小さくなっていく。「不作為のリスク」と呼ばれるものだ。一方、顧客はもちろん、社会や将来世代のことを考えると、そのリスクをとるべきかどうかは、大変悩ましい。
経営の現場では、広い洞察と素早い決断が求められる。コンプライアンスだけが気になると、できるだけリスクを避けようとする。その結果、「不作為のリスク」をこうむる。それが、「失われた30年」といわれる平成の失敗の本質だ。オーバーコンプライアンスがはびこると、ますます負のスパイラルから抜け出せなくなる。 パーパスを実践するためには、1人1人が正しい倫理観を胸に、不確実な現実を切り開いていかなければならない。ただ、倫理はあまりに抽象的かつ多義的すぎる。そこで、優先順位が明確な判断軸が必要になる。それがプリンシプルである。
■ジョンソン・エンド・ジョンソン「我が信条」 プリンシプルを基軸としたエシックス経営の先進事例を、見てみよう。 たとえば、ジョンソン・エンド・ジョンソンの「我が信条(Our Credo)」は、よく知られている。そこには、会社の果たすべき4つの社会的責任が示されている。 ① 患者、医師、看護師、そして母親、父親を含むすべての顧客、そしてビジネスパートナーに対する責任。 ② 世界中の全社員に対する責任。同時に、公正性、道義性を重視する卓越したリーダーを育成する責任。