毎晩飲み歩き、逆上し殴る妻…「自分が耐えるしかない」 表に出にくい男性のDV被害、大切なのは「男らしさ」より「あなたらしさ」
配偶者らから暴力を受けた際、男性は女性に比べ周囲に相談できない傾向がある。男性が被害を受けるはずがないとの偏見や、弱みを見せられないとの意識が背景にある。支援に携わる鹿児島県内の関係者は「孤立化や被害の潜在化を避けるためにもまずは相談を」と呼びかける。 【写真】主な相談窓口の電話番号はこちら
「自分が我慢すればいいと思っていた」。約10年前、妻の暴力を機に離婚した県内の男性(43)は振り返る。当時、妻と小学生、園児の4人家族。夫婦仲は良好だったが、男性が県外に単身赴任する少し前から歯車が狂い始めた。 妻は毎晩のように飲み歩いた。週末帰るたび、ごみ袋の山が増え、子どもは痩せ細っていた。長期の休みを取り、話し合いを試みたが、妻は逆上。棒状の物で殴打され、包丁で切り付けられた。とっさに首付近を押さえると、妻は「首を絞められた」と主張した。 「こうなる前に防げたのでは」。自責や妻への情から、事件化はせず病院にも行かなかった。これが離婚調停で裏目に。妻の暴力を訴えたが、証拠がないと一蹴される。近くに住む両親から子育ての協力が得られるなどの理由で妻が親権を得た。男性は「力で勝る分、耐えるしかなかった。どうすれば良かったのか、今も答えが出ない」と語る。 2022年に県が公表した男女共同参画に関する意識調査によると、男性の10人に1人が配偶者などから暴力や嫌がらせを受けた経験があった。人格否定や人間関係の過度な制限などの「精神的な嫌がらせ・脅迫」が最多で、「身体に対する暴行」、「性的な行為の強要」が続いた。
暴力を相談できなかったのは63%で、女性の50%を上回った。理由は「自分にも悪いところがあると思った」が最も多く、「相談しても無駄」「恥ずかしい」「自分さえ我慢すればやっていける」も目立った。 相談機関の体制には偏りがある。県や市町村が設置するドメスティックバイオレンス(DV)などに関する相談窓口19カ所のうち、男性専用があるのは2カ所。相談日は月1~2回と女性専用に比べ少ない。男女とも相談できる窓口は17カ所あったが、名称が「女性相談」となっている所もある。 性別を問わず相談を受ける薩摩川内市の配偶者暴力相談支援センターは、相談者1人に男女のペアで対応する。担当者は「相談しやすい性別は人によってさまざま。同性間の被害も念頭に置く必要がある」。 県男女共同参画センター(鹿児島市)は年間1700件前後の相談があり、男性が15%程度を占める。瀬戸山由起子課長は「男だからと我慢したり、周囲から『弱音を吐くな』と言われたりして抱え込みがち。大事なのは男らしさではなく、あなたらしさ。少しの悩みでも相談して」と話した。
南日本新聞 | 鹿児島