悲しきゲーム芸人、父になるーー認知症の父ががんに…フジタと父の突然の別れ #ザ・ノンフィクション #老いる社会
父を襲った病、希望と絶望の間で
1月20日深夜、就寝中にベッドから落ちた父は、そのままベッドに上がることができず、真冬の冷え込んだ部屋で、その身一つで朝まで過ごすことになってしまった。 翌朝、予定通り、デイサービスに出掛けたものの、38℃を超える高熱で自宅に帰される。連絡を受け、慌てて駆けつけたフジタが見たのは、苦しそうに息をする父。 フジタは迷わず救急車を呼んだ。 父は「肺炎」と診断され、そのまま入院となった。 肺炎はほどなく回復したものの、父の体にもっと大きな病気が見つかる。 フジタが医師から告げられた病名は、直腸がんでステージは3b。父の腸内には複数のがんができており、他の臓器へ転移している可能性もあるという。もはや内視鏡手術での切除は難しく、年齢を考慮すると外科手術には高いリスクがあると告げられた。 さらに、ケアマネジャーからは「病状を考えると、今後の独り暮らしは無理である」と言われる。 その頃のフジタは、3月末の出産を控えて帰省したしずかさんの実家と父の病院とを車で往復する毎日が続き、心身ともに疲れ切っていたように見えた。 フジタは父には「独り暮らしは無理だ」と説明し、退院後は認知症の人が共同生活を送るグループホームへの入居を勧めていたのだが、病床の父は「家に帰りたい」と頑なに繰り返していた。
家に帰りたい…グループホームでの日々
2024年2月22日、フジタの父は退院する。 しかし、1カ月におよぶ入院生活で体力は衰え、もはや自力で歩行することさえ困難だった。それでも「家に帰りたい」と言い張る父をフジタは懸命に説得する。 「一人でトイレに行けるようになったら、家に帰れるから」と半ば嘘を言い、何とか父をグループホームに預けることができた。 しかし、それはフジタにとっては別の意味で「苦しい決断」でもあった。 これまでのような在宅介護であれば、父の受け取る年金の範囲内で何とかやりくりできた。しかし、グループホームの入居となれば、費用の負担は倍以上となり、不足分は、息子であるフジタが補うしかない。 不安定な芸人の稼ぎで、父のグループホームの費用を負担しながら、新しく増える家族を養うことはできるのだろうか…、この頃のフジタは、いつもお金のことで頭を悩ませていた。 息子のそんな悩みはつゆ知らず、父は持ち前の明るさで、グループホームの人気者になっていた。ここでの生活に満足しているのか…、と思いきや、やはりフジタの顔を見れば「家に帰りたい」と言う。 理由を聞くと「ここには自分の物がない」「家には真也がいるから」と言う。 父と暮らした散らかし放題のあの家は、そもそもは、父が内縁の妻と一緒に暮らすために、2人で探した「終の棲家」だった。父にとって初めて自分のお金で買った家でもある。 結局最後まで、あの家で内縁の妻と一緒に暮らすことは、かなわぬ夢となってしまったのだが…。