博多駅前にのびる「光の道」 ビル街の谷間に沈む夕日/福岡市
オフィス街が広がるJR博多駅前で、ビルの谷間から路面を照らす夕日――。10年以上前に新聞で目にした一枚の写真がずっと心に残っていた。どんな構図で撮影されていたのか記憶はおぼろげだが、見た瞬間のインパクトは強烈だった。「いつかは自分も立ち会ってみたい」。そう思い続けてきた景色を撮りに駅へ向かった。 【写真】夕日に彩られたオフィス街
都心で”神秘”の時間
都心部に現れる「光の道」。時節を迎えたときに――と思いながら、つい時間が流れていた。長年の”宿題”を実行しようと、太陽の軌道を調べたところ、「はかた駅前通り」のすぐ北側を通る路地で、9月初めにチャンスが訪れそうだと分かった。
光の道といえば、福岡県福津市の宮地嶽神社で2月と10月の年2回、わずかな期間に見られる光景が広く知られている。玄界灘に向かって延びる参道の先に夕日が沈む神秘的な情景だ。 2023年に宮地嶽神社を取材したのは、その時期の少し前だった。それでも日没の時間が近づくと、人が集まり始め、参道の階段は身動きが難しいほどだった。
光が彩るアート作品
博多駅に足を運んだのは9月5日。日の入りは18時39分で、下見のために日没の1時間ほど前に到着したが、太陽はすでにビルとビルの間にあった。慌てて準備を整え、撮影に取りかかった。
駅ビル2階の通路から広角レンズでのぞくと、右手に「大博通り」、左手には建て替えのためのクレーンが立つ西日本シティ銀行の工事現場が見える。空の明るい部分に露出を合わせ、3段階ほどカメラの設定をアンダーにすると、夕焼け空の下にくっきりとビル群のシルエットが浮かび上がった。 高層ビルの影は重厚な観音扉のようにも見え、少し開いた隙間から太陽が顔を出している。神社の拝殿に置かれ、太陽の象徴ともいわれる神鏡を連想した。
家路を急ぐ人たちに、オレンジ色のスポットライトを当てる夕日。街の様子をしばらく眺めていると、駅前の景色全体が巨大な現代アート作品のようにも見えてきた。 振り返ると、道行く人たちも足を止め、スマートフォンのカメラで撮影している。声をかけた女性は台湾からの旅行客で、「美しいですね」という英語の返事と一緒に笑顔が向けられた。 太陽が移動するのに合わせて、少しずつ撮影場所を変える。視線を下に向けると、酷暑対策のミストシャワーが西日に輝いていた。雲海に包まれたような不思議な空間は、行き交う人たちにとって一服の清涼剤になっているようだ。