口癖は「国を守る、国民を守る」の海上自衛隊海将・近藤奈津枝さん 持ち歌は振り付けも完璧な『女々しくて』
「海将は海上自衛隊でトップの階級で、非常に重い責任を伴うからこそ、近藤総監が選ばれたのだと思います。海将の実力を持った人が“たまたま女性だった”ということです。 いっぽうでわれわれの組織は女性に活躍してもらえなければ、組織の存亡にかかわってきます。今回の人事は、キャリアを積んでいる女性自衛官のモチベーションを上げてくれたと思います。 さらに近藤総監は大湊地方総監部以外にもファンが多く、着任のときにはお祝いの花がずらりと並んでいました。あれほど多くの花は、見たことがありません」 昨年12月23日、大湊地方総監部の大講堂で行われた着任式は、厳粛な雰囲気に包まれていた。約200人もの隊員が整然と並ぶなか、その中央を胸にいくつもの勲章をつけた近藤さんが進み、隊員に向けて敬礼した。 その凜々しい姿を、天国の母はきっと『やっぱり、世界に羽ばたく自慢のなっちゃん!』と、誇らしく思ったに違いない。 ■「常に命を懸ける覚悟は持っています」 「総監室」という札がかかった扉を開けると、世界地図や担当区域である北海道・東北の地図などが壁に掲げられ、手前には大きな応接セット、奥には執務机が配置されていた。机の背後のわずかに開けた窓から海風が運ばれ、レースのカーテンを揺らしている。 《周到な準備なくしては的確かつ柔軟な対応はない》ため、毎日、7時半には出勤して8時からの業務の準備をしている。 「8時からモーニングレポートを受け、8時半くらいからは総監部の朝の会議に臨み、その後も夕方まで、幕僚の報告が続きます。何も事案が生起しなければ、16時半に退庁しますが、今のところ、事案が生起しない日はほとんどありません」 着任式後の記者会見でも、女性が働きやすい職場にするためには、まだまだ課題が山積していると語っていた。なかでも「決して許してはならないと意識している」のがセクハラ問題。陸上自衛隊では、五ノ井里奈さんの性被害が大きな社会問題となったばかりだ。 「一昨年の陸上自衛隊で生起した事案だけでなく、海上自衛隊においても、昨年10月に被害者の心情に寄り添っていない、誤った対応が発覚しました。セクハラ防止のための教育等各種対策を実行するとともに、事案を認知したならば、公明正大な調査の実施と被害者の心情に寄り添った対応を強く指導していく所存です」 一方、世界に目を向ければ、防衛費が増額されるなど、東アジアも含めた安全保障の情勢は混沌としている。 「有事の際、どういう場面に立つのかはわかりませんが、常に命を懸ける覚悟は持っています。自衛隊員は《事に臨んでは危険を顧みず》と宣誓しますので、誰もが同じ気持ちだと思っています」 そう語る近藤さんは、改めて海将としての責任の重さをかみしめていたに違いない。“国を守る、国民を守る、部下を守る、部下の家族を守る、それが私の使命だ”と――。 (取材・文:小野建史)
「女性自身」2024年6月25日号