ずっとスーパーの言いなりだった…1日600個売れる"豆腐のパフェ"を生み出した「田舎の小さな豆腐店」の逆転劇
佐賀の豆腐店「佐嘉平川屋」は1日600個の“豆腐のパフェ”を売る人気店だ。3代目社長・平川大計さんは、キャリア官僚の仕事を辞め、倒産寸前だった家業を継いだ。町の小さな豆腐店は、なぜ国内外から客が集まる人気店になれたのか。フリーライターのサオリス・ユーフラテスさんが取材した――。 【写真】1日600個売れるパフェ。郷土食「ごどうふ」や豆乳ソフトクリームが使われている ■県外、海外からも訪れる人気の豆腐店 「ごどうふ」と言われる豆乳もちの上に、自家製の豆乳で作ったソフトクリーム。その山の麓には、豆腐白玉が添えられており、上から黒蜜と黄粉がかかっている。さっぱりとした口当たりの豆乳ソフトは、ほのかな甘みを感じる。ごどうふと豆腐白玉のもっちりとした食感は癖になる。 「やさしい味がする。なんか懐かしい、おばあちゃんちを思い出す」。隣の席でパフェを口にした女性客が目を細めていた。 佐賀県嬉野市に、1日に600個のパフェを売る「豆腐店」がある。 店が開いている9時から18時までの間、1分間に1個のペースで売れ続けていることになる。このパフェの虜になった芸能人が通うことでも知られており、県外や海外からも客が訪れる。 オーナーは、「佐嘉平川屋」(同県武雄市)3代目社長の平川大計(ひろかず)さん。1950年に祖父が創業した豆腐店で、平川さんが入社した2000年は倒産寸前まで追い込まれていた。 2006年に社長になると、これまでの卸中心の事業からBtoC事業へとシフトして、これまでの儲からない豆腐店の収益構造を大きく変えた。豆腐の販売を依存することで生じていたスーパーとのいびつな力関係を改め、2024年7月期には、売り上げを2000年比7.8倍までに成長させた。 ■キャリア官僚から豆腐店へ 2000年5月の連休明け、東京・霞ヶ関にある国土交通省のオフィスに出勤した平川さんは、すぐさま上司の席へ向かった。入省して3つの部署を経験した5年目のことだった。 「爆弾発言していいですか? 辞めていいですか」 単刀直入に伝えた。 「は? 何言ってんの」当然のように慰留されるも、決意が揺らぐことはなかった。 九州大学工学部土木工学科から国家公務員採用I種試験に合格し、官僚として運輸省(現・国土交通省)へ入った。退職に迷いはなかったのだろうか。 「今になって考えてみれば官僚になりたかったわけじゃないんです。高校時代、ちゃんと勉強していたらもっといい大学にいけたんじゃないかって……俺はもっとできるってことを証明したくて公務員試験を受けたんです。それに役所は、上司を見て永田町を見て、上に決められたものを作る世界。自分を表現できる場所ではなかったんです」