56時間黙秘を貫く元弁護士に、検事は「ガキ」「お子ちゃま」と迫った 精神的拷問か、必要な説得か。国を訴え、映像を公開して世に問う「取り調べ」
7日目 「あなたの言っている黙秘権って何なんですか。全然理解できないんだけども。あなた自身も分かってないんじゃないの」。(弁護活動について)「着眼点が修習生だね」「視野が狭い」 9日目 (トイレに行って戻ってくると)「取り調べ中断してすみませんでしたとか言うんじゃねえの、普通。子どもじゃないんだから。あんた被疑者なんだよ犯罪の」 12日目 「お子ちゃま発想だったんでしょうね、あなたの弁護士観っていうのはね。ガキだよね」「正しいものと正しくないものを見分ける感覚っていうのが異常に劣っている」 13日目 「どうやったらこんな弁護士ができあがるんだ」 14日目 「うっとうしいだけなんですよね。手ごわいなっていう感じにはならないんですよ」「僕ちゃん強くないし、弁護士として」「弁護士自体、資格がないんですよ、あなたには」 18日目 (江口氏の中学時代について)「中学校の成績を見ていたら、あんまり数学とか理科とか、理系的なものが得意じゃなかったみたいですね。論理性がずれているんだよな」。(人格について)「もともとうそつきやすい体質なんだから」「やっぱり詐欺師的な類型の人たちですよ」 ▽法廷で公開映像、8万回再生
江口氏は取材に「まさか中学時代の成績まで持ち出されるとは思わなかった。人格や能力を否定して精神的に屈服させようという意図は分かっていたが、繰り返し言われ精神的ダメージがたまっていった。耐えなければと自分の中で繰り返し、反論したくてもぐっとこらえていた」と振り返った。 江口氏が勾留中に記載した当時のメモからは、自身の状況を冷静に分析しようと努めつつも、苦しい思いを抱いていたことがうかがえる。 「検事のやり方は、被疑者を人間性の面から批判し、その人間性が事件にも繋がっていると思い込ませ、事件も含めて全面的に自信を喪失させるというもの。つまりはマウンティングだ」 「黙秘すると、取調官は様々な悪い情報を吹き込んでくる。悪い情報を吹き込まれることが続くと、拘置所の閉鎖的環境も相まって、被疑者に対して暗示として働く」 今年1月の弁論で、取り調べ映像が法廷で公開された。2時間20分のうち、さらに一部となる約13分だけだったが、傍聴席で聞いた人からは「よく黙秘を貫けた。自分なら耐えられない」といった感想も聞かれた。
弁護団は法廷で再生されたのと同じ13分の映像をユーチューブで公開。8万回以上再生されている。 裁判は4月に結審した。最後の意見陳述で代理人の宮村啓太弁護士は、取り調べの実態に迫る証拠調べだったと意義に触れた上で、こう訴えた。 「21日という日数を想像してほしい。来る日も来る日も罵詈雑言を浴びせられる。これが黙秘権が保障されている国の刑事実務なのか。裁判所が適法だとお墨付きを与えれば、全国の取調室で同じことが起きる」