56時間黙秘を貫く元弁護士に、検事は「ガキ」「お子ちゃま」と迫った 精神的拷問か、必要な説得か。国を訴え、映像を公開して世に問う「取り調べ」
一方、黙秘している容疑者に取り調べを続けることは刑事訴訟法に根拠規定があるとされ、「取り調べ受忍義務」と呼ばれる。国側は「人権を侵害した取り調べは許されない」としつつも、「真実を述べるよう説得することは許される。江口氏側の主張は検事の発言の一部を切り取っただけだ」と違法性を否定する。 ▽取り調べ映像が証拠で出て来る異例の展開 2022年3月に提訴した江口氏側の主張は次のようなものだ。 (1)逮捕直後に「これ以上話すことはありません」「黙秘に入ります」と言ったにもかかわらず取り調べが続けられたのは黙秘権侵害 (2)検事が刑事裁判の弁護人と江口氏の信頼関係を壊すような発言を繰り返したのは弁護人依頼権侵害 (3)検事が「ガキ」などと人格や弁護士としての能力を侮辱したのは人格権侵害 江口氏側は、取り調べの在り方が問題となる以上、取り調べを録音・録画した媒体を提出するべきだと求めた。国側は当初拒んだが、裁判所の勧告を受けて2時間20分のデータを証拠として提出した。取り調べの録音・録画映像が民事訴訟の場に証拠として出されるのは極めて異例のことだ。
▽微動だにせず一言も発さなかったが… 記者は昨年10月、2時間20分にわたる映像を確認した。 最初の場面は逮捕されて4日目。映像は2画面に分かれ、一方に江口氏、もう一方に検事を含めた部屋全体が映る。検事は黙秘権があることを告知してから取り調べを始めたが、目を閉じる江口氏に対し、黙秘をやめるよう迫った。「奥さんとか子どもさんにも迷惑が掛かるんですよ」 一言も発さないままその日の取り調べが終わると、検事は取り調べ状況を示した書面への署名を求めた。 江口氏「サインはしません」 検事「なぜそんなこともできない。弁護士だろ。ルール守ってくださいよ」 江口氏「怒鳴られたのでなおさらサインはしません」 検事「怒鳴ってないし。強く言っただけで。でも録音してるから後で分かるね」 緊張が走ったやりとりだったが、検事は録音していることを意識しているようだった。映像では机をたたいたり怒鳴り散らしたりすることはなかった。ただ、人格攻撃ややゆと取れるような言葉はその後も続いた。以下は検事の発言だ。 ▽中学時代の成績を基に「論理性ずれている」