56時間黙秘を貫く元弁護士に、検事は「ガキ」「お子ちゃま」と迫った 精神的拷問か、必要な説得か。国を訴え、映像を公開して世に問う「取り調べ」
黙秘すると言っているのに、検事が取り調べを続けることは許されるのだろうか―。こんな問題意識から、元弁護士の江口大和氏(38)が国に対して損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしている。検察に逮捕され、21日間で56時間以上に及ぶ取り調べの間、「ガキ」「お子ちゃま」などと言われつつも黙秘を貫いた当事者だ。江口氏側は裁判でこうした取り調べを「精神的拷問」と表現。国側は「真実を供述するよう説得しようとしたものだ」と反論しており、裁判所がどう判断するか注目される。7月18日に予定される判決を前に、裁判がどのような経緯をたどったのか、そして江口氏が受けたとされる「拷問」がどんなものだったかを振り返ってみたい。(共同通信=帯向琢磨) 【写真】冤罪の被害額は70億円 超高層ビルでの栄華を誇った社長生活から一転、たった3畳の独房暮らし…「それでも検察は謝罪も検証もしないのか!」企業創業者の怒り
▽黙秘する理由と検事側の理屈 「あなたの弁護士観っていうのはね。ガキだよね」 「どうやったらこんな弁護士ができあがるんだ」 記者が裁判所で訴訟記録を閲覧して確認した映像では、目をつむりながら微動だにしない江口氏に対し、年上の検事が延々と叱責する様子が映っていた。映像の一部は、弁護側の訴えを受けて公開の法廷でも流された。 江口氏は2018年、無免許での死亡事故を巡り関係者にうその供述をさせたとして、横浜地検特別刑事部の独自捜査により犯人隠避教唆罪で逮捕・起訴された。無罪を争ったが23年に最高裁で執行猶予付きの有罪が確定し、弁護士資格を失った。 今回の訴訟を起こすことで「負け惜しみじゃないか」「結局有罪になっている」という批判が起こることを懸念しつつ、それでも見逃すことができない問題だと考えているという。 そもそもなぜ黙秘が必要なのか。江口氏は、説明することで起訴を免れる可能性がある場合など弁解した方が良いケースもあるとした上で、今回は起訴される可能性が高いと考えていたため「捜査段階で供述すると、先回りして言い分をつぶす捜査をされることもある。自分の弁解は公判で述べれば良い」と説明する。