黄金期迎えた日本のスケートボード界 あふれる若き才能、施設も急増
現在の日本は「スケートボード大国」と呼べるほど才能豊かなスケーターが顔をそろえる。2024年夏のパリ・オリンピックはメダルラッシュに沸き、28年ロサンゼルス五輪を見据えるスター候補も控える。スポーツクライミングやブレイキンなど「アーバン(都市型)スポーツ」への関心は高まり、誰もが気軽に触れられる環境も整ってきた。【角田直哉】 【写真特集】パリ五輪スケボー、演技を終え驚いた表情の吉沢恋 パリ五輪では、日本のスケーターたちが高い技術力と技の完成度で「黄金期」の真っただ中にあることを示した。 衝撃の大逆転劇で、東京五輪からの2連覇を達成したのが男子ストリートの堀米雄斗選手(25)だ。 8人による決勝の最終試技を前に順位は暫定7位。トップの米国選手には大差を付けられ、逆転は極めて困難な状況だった。それでも、みじんも諦めなかった堀米選手は「1%の可能性。それを今日、最後の最後まで信じ切れた」。 静かに地面を蹴って滑り出した堀米選手は、ボード(板)の先端をはじいて跳び上がり、空中で体ごと270度回転し、後部をレール(手すり)にかけて滑り降りる。腰をグッと沈めて着地を決めると、緊張感に包まれた静寂が大歓声に変わった。その中心で普段はクールな堀米選手が雄たけびを上げた。大会最高の97・08点をマークして「1%」を現実にした。 女子ストリートを制したのは、中学3年生の吉沢恋(ここ)選手(15)だった。 暫定4位で迎えた決勝ベストトリックの4回目。技の難度を落として表彰台圏内を狙うか、頂点だけを目指すか。究極の2択にも吉沢選手は「取るなら1位。自分がメークしたい一番難易度の高い技で」と迷いはなかった。 ほぼ、ぶっつけ本番で「ビッグスピンフリップ・フロントサイド・ボードスライド」を成功。金メダルを引き寄せた大技の後に見せた、あどけなさの残る喜びの表情は印象的で、パリに爽やかな新風を吹かせた。 パリ五輪では堀米、吉沢両選手以外も好成績を残した。 ストリート勢は女子の赤間凜音(りず)選手(15)が銀メダル、東京五輪銅メダルの中山楓奈選手(19)は7位。男子の白井空良選手(23)は4位だった。 パーク女子では開心那(ここな)選手(16)が東京五輪に続いての銀メダルで、草木ひなの選手(16)が8位に入った。 前回の東京五輪で初採用されたスケートボードは、28年のロサンゼルス五輪での実施も既に決定している。他にもパリ五輪を経験した男子ストリートの小野寺吟雲(ぎんう)選手(14)や東京五輪女子ストリート金メダリストの西矢椛(もみじ)選手(17)ら才能あふれる若手が大勢おり、未来の主役の座を巡る争いはし烈を極める。 なぜ日本は「スケートボード大国」になったのか――。吉沢選手は実体験も踏まえて、こう説明する。 「環境が整っていることと日本人の考え方や心の優しさという部分も大きい。自分よりレベルが下の子にも教えてあげるし、嫌な顔をせずにあいさつする。日本の良いところだと思う」 元々スケーターは、互いに教え合い、横につながっていく気風が漂うが、日本では特にこの意識が強い。自由や独創性を何より大切にするカルチャーは脈々と受け継がれ、ロサンゼルスでの新たな名場面誕生につながっていく。 ◇新「聖地」五輪レガシー活用 オリンピックでのスケートボードやブレイキン、スポーツクライミングの日本勢の活躍もあり、全国各地でアーバンスポーツに親しむことができる施設は急増している。 NPO法人「日本スケートパーク協会」のまとめによると、公共のスケートボードパークの数は東京五輪が開催された2021年から24年までの約3年間で、約2倍になった。 24年10月には、レインボーブリッジやお台場を一望する東京都江東区の有明地区に複合型スポーツレジャー施設「有明アーバンスポーツパーク」が全面開業した。 元々、21年の東京五輪のスケートボードと自転車BMXが行われた会場だった。施設は仮設で大会後に撤去される予定だったが「レガシーとして残そう」との機運が高まり、さまざまなアーバンスポーツに気軽に触れることができるように整備された。 合言葉は「跡地を、みんなで遊べる聖地へ」。 施設を運営管理する東京建物新規事業開発部の松村理央さんは「(東京五輪の)大会のレガシーであるこの施設をアーバンスポーツの聖地とし、誰もがスポーツを楽しめる、遊べる場を目指すという思いを込めた。五輪効果を一過性のものとせず、アーバンスポーツを根付かせ、どう生かしていくかが大切」と説明する。 スケートボード施設は五輪会場をそのまま引き継いだほか、ボルダリングのホールド(突起物)やバスケットボール3人制のゴールなどは東京五輪で使われた器具が再活用された。今後は、さまざまな大会の誘致も検討する見込みという。 約3・1ヘクタールの広大な敷地内には、全天候型のランニングスタジアムや、テニスや卓球、バドミントンに着想を得た米国発祥の「ピックルボール」のコートも設置。幅広い世代が気軽にアーバンスポーツを楽しめる環境を充実させた。 順位や勝ち負けにこだわらず、競技者も観戦者も皆が自由に楽しみ、自分ならではの個性を表現し合うことが、アーバンスポーツ最大の魅力だ。東京五輪で見いだされた価値は、パリ五輪でより浸透し、広がっていく。