【コラム】ならず者トレーダー第1号、世を案ずる-ニック・リーソン
マッコーリーという著名な一流企業で金属やバルク商品を扱うトレーダーが、数字を改ざんし、巨額の損失を上司の目から隠していた。この事実が声を大にして訴えるのは、預金者や投資家、経済全体を守る措置がとうてい足りていないということだ。トレーダーの行動を監視するさまざまなテクノロジーが利用可能であり、最新の市場監督ツールに銀行が多額を費やし、ポスト信用危機の規制範囲と影響力を当局が高らかに宣言しているにもかかわらず、ならず者トレーダーは何カ月、いや何年もの間、罪に問われることなく活動できている。
クライン氏が引き起こした不運な出来事は、マッコーリーに約5800万ドルの損失をもたらしたとFCAは推計している。最悪の場合、損失額はさらに膨れ上がり、株主やステークホールダーにさらに大きな打撃を与えかねなかった。「重大な不手際」に対する1300万ポンド(約25億円)の罰金は、銀行にとってはたかが知れているが、信望への打撃ははるかに大きくなり得る。
マッコーリーが制裁を受けた週に、英議会はFCAに関する358ページにわたる報告書を発表した。消費者と投資家の保護においてFCA自身が認める不手際を指摘し「良く言っても無能、悪く言えば不誠実」と表現した。(FCAの報道官はこの報告書の結論を断固否定している)
マッコーリーの落ち度を何倍にも増幅したのは、同行の内部統制不備に対して無気力なFCAの姿勢だった。FCAは同行にもっと思い罰金を科すとともに、ならず者トレーダーを監督すべき経営幹部への罰則を強化する必要がある。そうすることによって、規制とコンプライアンスを嘲笑し甘く見ている経営陣や取締役会メンバーらに対して、意味のある抑止措置を作らなくてはならない。
426件もの架空取引がこれほどあっけなく簡単にすり抜けてしまうのであれば、秩序を維持するために必要なのは新たな規則やツールではない。すでに規制が要求している基準に従って、コンプライアンス部門が単に徹底的に仕事をこなすことだ。銀行は架空取引や粉飾会計を見極める上で、人間の欠点を克服した人工知能(AI)ツールを開発すべきだ。