日本や世界で受け継がれてきた藍染め【今に息づく 和の伝統】
「実は面白い仮説があるんです」と青木さんは言う。綿や麻などのセルロース系繊維はブドウ糖が鎖のように連なっている。隣り合う鎖の距離はインジゴ分子が持つ2つのベンゼン環の距離とほぼ同じで、分子がピタリと収まるのでよく染まるのではないか。これは高エネルギー加速器研究機構・構造生物学研究センター所長の千田俊哉さんが考えたもので、「実験で確認するのは難しいそうですが、いつか明らかにしたいテーマの一つです」と青木さん。
藍染めが支える伝統文化
青木さんは、世界各地で使われている天然染料の歴史や科学を網羅的にまとめた「Natural Dyes(ナチュラル・ダイズ)」を著したDominique Cardon(ドミニク・カルドン)の言葉を引いて、「藍染めがあったおかげで、日本は先進国でありながら伝統的な染め物の文化を持ち続けている素晴らしい国になったんです」と語る。
明治時代以降は合成染料に押され、第二次世界大戦中には食糧増産のために栽培を禁止されてしまった藍。それでも、藍染めを復活させ継承する人たちがいて、現代の若者たちの挑戦へと続いている。城西高校阿波藍専攻班の3年生たちは「多くの人に阿波藍を知ってもらいたい」「ハンカチやストールの新しいデザインを生み出したい」「木材を染色できるようにしたい」と、それぞれの思いを語る。
世界各地で受け継がれてきた、生きた伝統がここにもある。
プロフィール
徳島県立城西高等学校 植物活用科 阿波藍専攻班 1904年、徳島県立農業学校として創立。徳島県城西高等学校、徳島県立徳島農業高等学校を経て97年に現在の名称に。農業科学科を前身とする植物活用科は2012年に設置され、その中の阿波藍専攻班が阿波藍文化の継承や交流活動に取り組む。
青木正明 京都光華女子大学 短期大学部 ライフデザイン学科 准教授/天然色工房tezomeya 代表 東京大学医学部保健学科卒業。株式会社ワコールに勤務後、2002年に天然色工房tezomeyaを開業。09年より京都芸術大学美術学部非常勤講師、19年より現職。