日本や世界で受け継がれてきた藍染め【今に息づく 和の伝統】
青く染める色素は世界共通
「藍染めはヨーロッパやアフリカ、アメリカ大陸でも行われていました」と語るのは、京都光華女子大学ライフデザイン学科准教授の青木正明さん。研究のかたわら京都市内で天然色工房tezomeyaを営み、衣料品などの染色や製品の販売も手がける。
藍染めの原料として栽培・採取されている植物は地域によって異なり、世界全体で見るとマメ科の植物が多く使われている。日本ではタデ科のタデアイを用いる藍染めが各地で伝わっており、阿波藍もその一つだ。沖縄では、台湾や中国大陸南部にも分布するキツネノマゴ科のリュウキュウアイが使われている。使われる植物はさまざまだが、青く染める色素がインジゴであることは共通している。
インジゴは、植物体の中ではインジカンという無色透明な物質として存在している。酵素の働きでブドウ糖が外れてインドキシルとなり、酸素のある環境でインドキシルが2つ結合すると青色のインジゴになる。 「インジカンは多様な動植物に存在するトリプトファンというアミノ酸に由来しています。身近な物質だったから、世界のあちこちで染料として用いられたのかもしれません」と青木さんは見ている。
インジゴは水にほとんど溶けないので貯蔵や輸送には適しているが、染色にあたってはいったん水に溶ける状態に変える必要がある。城西高校の生徒が手間をかけてすくもを作り、灰汁を使うのはこのためだ。発酵を経たすくもの中や水中にいる菌がアルカリ性の環境で育ち、電子の受け渡しを手助けする。インジゴが電子を受け取る(還元される)と、水に溶ける黄色いロイコインジゴとなる。繊維の中に入りこんだところで空気に触れると、酸素分子に電子を奪われて(酸化されて)、青色のインジゴに戻る。これが繊維を染めるからくりだ。
藍染めが世界各地で行われている背景に木綿が染まりやすいという性質がある。日本でも江戸時代に木綿の普及と共に藍染めが庶民にまで広まったのだが、なぜ木綿が染まりやすいのか、理由はまだわかっていない。