「ワクチン接種のメリットはリスクを上回る」新型コロナワクチンと心筋炎の関連について専門家が解説
副反応としての心筋炎の発生頻度は、非常に低い
新型コロナワクチンが心筋炎と関連しているのではないか、と最初に報告があったのはイスラエルでした。イスラエルでファイザー社のワクチンを接種した人の約5万人に1人に、心筋炎が認められたのです。 先ほどお伝えしたように、ワクチンを接種していない人でも様々な理由から心筋炎になることがあります。ですので、この「約5万人に1人」という数自体は、ワクチンと心筋炎の関連を疑わせるほど多い数ではありません。しかし、のちの詳しい調査によって、16歳から24歳の特に若い男性に限ってみると、心筋炎の発生頻度が高いことが判明しました。
mRNAワクチンと心筋炎との関連は、アメリカでも詳しく調べられています。 CDC(アメリカ疾病対策センター)の予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)では、「12歳~39歳を対象に、ワクチンを接種した人達と接種していない人達とで心筋炎【※】が起こる頻度に差があるかを調査した結果、ワクチンを接種した人達の頻度の方が高かった」と報告がありました。
ただし、その発生頻度は低く、1回目のワクチン接種後は100万回あたり4.4件、2回目のワクチン接種後は100万回あたり12.6件と推定されています。症状は大体1週間以内(特に接種後4~5日以内)に起き、2回目の後の方が1回目の後より起こりやすいです。また、女性よりも男性の方が、発生頻度が高いと報告されています。そして、ワクチン接種後に認められた心筋炎の多くが軽症であり、大部分の方がすでに回復されていることも分かっています。ワクチン接種と心筋炎の関連や、長期的な影響については、今後も注意深く調べていく必要があります。
ワクチン接種のメリットはリスクを上回る
ワクチン接種後に見られた心筋炎のほとんどが比較的軽症であり、ほとんどの方がすでに回復していることは重要です。また、新型コロナウイルス感染自体によって生じる心筋炎の発生頻度は、ワクチンによる発生頻度よりも高いことが報告されています。新型コロナウイルス感染症はその他の重症な合併症を起こす可能性もあります。そのため、CDCや米国の各学会は、現時点では「ワクチン接種のメリットはリスクを上回る」とし、引き続きワクチン接種を推奨しています。 新型コロナワクチンに関しては多くの報道があり、中には不安を煽るようなニュースも多くあると思います。 ただ、今回の心筋炎の例のように、新型コロナウイルスワクチンの安全性については、世界中で注意深く評価されています。こうした安全性を監視するシステムがあるおかげで、今回の心筋炎のようにごくまれな副反応に関しても、その評価が可能となっているのです。今後も副反応が見つかった場合は、その都度正確な情報をお伝えしていきたいと思います。 【※】米国の予防接種の実施に関する諮問委員会は、心筋炎と心膜炎(心臓を包んでいる膜の炎症)を合わせた数を報告しています。 参考:予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)の報告資料(英語) https://www.cdc.gov/vaccines/acip/meetings/downloads/slides-2021-06/03-COVID-Shimabukuro-508.pdf 解説者:安川康介 こびナビ幹事 米国内科専門医、米国感染症専門医 慶応義塾大学医学部卒。日本赤十字社医療センターで初期研修後、渡米。ミネソタ大学内科レジデンシー、ベイラー医科大学感染症フェローシップ修了。ワシントンホスピタルセンターホスピタリスト、ジョージタウン大学医学部内科助教。