中学時代から別の道を歩んできた富山の“大村ツインズ”。兄・笙太、弟・悠太が交差した最後の選手権「これからもお互いに良い影響を」
龍谷富山高の初優勝で幕を閉じた全国高校サッカー選手権富山県予選では、全国大会を目指してしのぎを削った双子の兄弟のドラマもあった。 【写真】「全然違う」「びびるくらいに…」久保建英の9年前と現在の比較写真に反響 兄は県内で絶対的な王者と目された富山一高のDF大村笙太(3年=JFAアカデミー福島U-15WEST)で、弟は今季の富山県1部リーグを制した富山北部高のDF大村悠太(3年=スクエア富山)。2人は中学時代から別の道を歩み、高校に入ってからは共に強豪校の中心選手として刺激を与え合ってきた間柄だ。 いずれの高校も決勝進出チームの最有力候補と目されており、「双子対決というのを期待されていた」(笙太)というのは本人たちも自覚済み。しかし、運命は残酷。いずれも準決勝で無念の敗退に終わり、決勝での再会とはならなかった。 ■“絶対王者”の主軸を担った兄・笙太 先に試合を終えたのは兄・笙太の富山一。創部21年目で初の決勝、初の全国出場を狙う龍谷富山の勢いに屈し、1-4で敗れた。 左ウイングバックでフル出場した笙太は特にビハインドの後半、「起点を作らないといけないのでウイングバックがキーになると話していたし、キーにならないといけないと思った」という懸命なオーバーラップで反撃を狙ったが、ゴールにつなげることはできなかった。 「正直、高校サッカー生活はうまくいくことばかりではなかったし、苦しいことのほうが多かった。なんとかその中でやって来たけど、こういう舞台で準決勝で負けてしまうのは悔しい。もっと試合をしたかった」(笙太) 今季は高円宮杯プリンスリーグ北信越1部で下位に沈み、苦しい1年を過ごしてきた中での選手権。絶対王者として10連覇を目指して戦ってきたが、目標を叶えることはできなかった。 「プレッシャーはもちろんあったけど、それはここ(富山一)に入る以上はわかっていたことだし、プレッシャーで固まるみたいなことはなかった。背負うものは大きかったですね。でもいい意味で背負わせてもらったなと思います。そのプレッシャーがありながら勝ってきたのがトミイチだったので、弱いところが出てしまった」。主将としての責任を背負った。 試合後には、2試合目に準決勝を控えていた弟・悠太を見やり、「双子対決というのを期待されていたし、自分自身もやりたかった。できないのが悔しい。インターハイ決勝ではできたけど、選手権でやりたいとずっと思っていたので」と悔しさを吐露。もっとも、悔しさの中でも「あと2勝して全国に行ってもらいたいなという気持ちだけ。あとは託して、やってもらうしかない」と想いを託していた。 ■伝統校で文武両立に挑んだ弟・悠太 ところが弟・悠太も悔しい結末に終わった。全国大会6度の出場を誇る水橋高を母体に合併し、校名変更後初の全国出場を狙う富山北部はピッチを横断する強風が吹き荒れる難しいコンディションの中、富山東と我慢くらべの接戦を演じていたが、セットプレー一発に屈して0-1で敗れた。 「やり切るところでやり切れず、悔いが残る試合だった。決勝に行って、みんなで目標にしていた全国大会に行けないことが悔しい」。強風の影響は特に攻撃の精度不足に表れていた中、悠太は「風の影響を考えながらやろうとは話していたけど、そこに対応しきれない部分があった」と悔やんだ。 試合前にはピッチで整列する際、兄と視線を交わしていた。「並んでいる時にちょっとアイコンタクトをして、グッて(親指を立てて)『頑張って』って言ってくれた。それに応えられなくて残念」。ライバルから見ても「正直驚きだった」という富山一の敗退。その悔しさの中でも優しい眼差しを向けてくれた兄・笙太の姿を思い出し、弟・悠太は声を詰まらせた。 弟・悠太にとって、兄・笙太は常に先を行く存在だった。小学校時代は共に地元・滑川市のJKキッズでプレーしていたが、兄はJFAアカデミー福島U-15WESTのセレクションに合格し、静岡県にサッカー留学。一方、自身はセレクションに通らず、地元でプレーする道を選んだ過去がある。 「自分が落ちたところにあっちは受かって、頑張ってほしいという反面、ちょっと悔しさもあって、ずっとライバルだと思ってきた」(悠太) 高校では兄が複数の選択肢の中で「チームの熱量に感動して、ここでサッカーしたいと思った」という富山一への進学を選び、今度は共に全国出場を争う間柄に。滑川市の実家で同居していることもあり、ここでも常に刺激を与えられていた。 「いつも身近にいる存在だったからこそ、トミイチを倒すぞという気持ちはずっと持っていた。やっているカテゴリが違って、お互いの試合結果も気になるし、絶対に倒してやるという気持ちで3年間サッカーをやってきた。本当は決勝で2人でやって勝ちたかったけど、それが叶わなくなって残念」(悠太)。その悔しさの中には兄の無念もこもっていた。 ■それぞれの道へ 兄・笙太は卒業後、「自分の武器を評価してくれて、見てくれていて、ここでサッカーしたいと思った」という関東の大学でサッカーを続ける予定。現在は都道府県リーグ所属の大学だというが、「いつか関東1部・2部のチームと戦えたら」と目標を掲げている。 パワフルな左足のキックや迫力溢れるオーバーラップは確かな武器。「攻守においてしっかりと相手を圧倒する選手になりたいし、味方にいて助かる選手、相手にとって嫌な選手になりたい」。そんな将来像を描きつつ、「やるしかない。この悔しさをもっともっとサッカーにぶつけて、自分自身、サッカー選手としてももっと成長していけたらと思う」と選手権の悔しさも活かしていく構えだ。 一方の弟・悠太は15~16日のプリンスリーグ北信越参入プレーオフを終えれば、受験勉強生活に入り、来年には国公立大学を一般受験予定。進学を控えている状況とあり、競技レベルでのサッカーを続けるかどうかは「まだ決めていない」という。 ただ、どのようなキャリアを選んだとしても、高校までのサッカーキャリアで続けてきた努力は大いに活きるはず。「兄は人として尊敬できるこのでそういうところも見習って、これからもお互いに良い影響を与えながらやっていきたいです」(悠太)。それぞれの道に進んでも、大村ツインズは互いに良い刺激を与え続けていくつもりだ。