映画ライター厳選!「公開本数多すぎ問題」で面白いのに見逃されてる、2024年公開の良作5【エンタメベスト2024】
『胸騒ぎ』
休暇でイタリア旅行に出かけたデンマーク人夫婦ビャアン&ルイーセと娘アウネスは、そこで出会ったオランダ人夫婦パトリック&カリンと息子アベールと意気投合。数週間後、招待されて人里離れた彼らの家を尋ねることに――それが身の毛もよだつ体験の始まりとなっていきます。 多くの日本人同様に、アメリカ文化が普通の世界で育った私にとって、北欧映画はどのジャンルでも「斜め上」「奇想天外」と感じる作品だらけなのですが、このスリラーの驚愕の展開たるや。映画のミソは、2組の夫婦が全く違う文化背景をもっていること。 都会派のホワイトカラーであるデンマーク人夫婦は、オランダ人夫婦のワイルドな住環境に「うわ」、夕食のレストランとその外食のお作法に「え……?」、自分たちにわからないオランダ語で話し始める夫婦に「なんなの……?」と思いながらも、都会の洗練ゆえに相手への非礼になることを恐れ、「習慣が違うのかな?!」的にやりすごすうちにのっぴきならない状況に追い込まれてゆきます。 尋常ならざるラストはまさに「そ、そう来るのか北欧映画!!」と戦慄しますが、ショッキングなスリラーに強い人であれば、夫婦モノとして見ても面白いです。「波風たてたくない日本人」が見たら、生き方変えたくなるかも。
『ありふれた教室』
ドイツのある学校を舞台に、小さなトラブルが雪だるま式に大事になってゆく過程をサスペンスフルに描いた作品。仕事熱心な新任教師カーラは、校内で頻発する盗難事件の犯人を「生徒同士にチクらせよう」とする一部教師に反発。ある罠を仕掛けて「犯人らしき人間」を突き止めるのですが、それがあらたな火種となって騒動は拡大してゆきます。 事態がややこしくこじれてゆくのは、この学校が人種や文化、さらに社会階級的にめちゃめちゃ多様だから。カーラはポーランド人、最初にチクる生徒は白人で、チクられる生徒はイスラム教徒、「犯人らしき人間」はこの学校の職員で息子を学校に通わせるシングルマザーで、その他にも様々に異なる素地の人物たちが持つ優越性やコンプレックスが、事件によって浮き彫りになってゆきます。 つまるところ映画が描くのが多様性社会の縮図なのですが、どうやったら収集できるのかわからず、ハラハラしっぱなし。事態収拾のために辞職すると言い出したカーラが、学校側に「先生が足りないからダメ」と言われる場面もあり、これぜんぜん対岸の火事じゃないじゃん! なんてことも感じます。
渥美 志保