昼休みの副業は法的にグレー…株式投資、YouTuber、ウーバーイーツ「解雇される副業」のボーダーライン
住まいやお金など家族を守るための完璧な防御法はあるか。仕事や職場の揉め事に遭遇したときの対処法とは。よもやのトラブルから身を守るために法律の知恵を味方につけよう。 【この記事の画像を見る】 ■本業の売り上げに損失を与えれば解雇の可能性がある 最近は副業を認める企業も増えていますが、そもそも法律的には副業を禁止することはできません。最近も「メガバンクが副業を解禁した」と話題になりましたが、おかしな話です。 就業規則に副業を禁止する規定を盛り込んでいる企業も少なくありませんが、法的に強制力はありません。勤務時間内に副業するのはNGですが、勤務時間外であれば原則OKです。 副業を認めなかった会社が敗訴した判例として、京都地裁で2012年に争われた裁判があります。運送会社の準社員が勤務時間外のアルバイトを会社へ申請したところ不許可にされましたが、勤務時間外は自由に時間を使用してよいとして、会社側に損害賠償を命じた判決が下りました。 このことからも、銀行員が休日に自転車を漕いでウーバーイーツ配達員の副業をしようと、ユーチューバーとして活動をしようと何の問題もないのです。 ただ、企業が副業を禁止できる4つのケースが、裁判例から明らかになっています。
■勤務時間中のFX、昼休みのバイトは… 1つ目は労務提供上の支障がある場合。副業によって疲れてしまい、本業の勤務に支障をきたすような副業は禁止できます。 2つ目は企業秘密が漏洩する場合。本業で得た勤務先の秘密を副業で利用することはできません。たとえば、勤務先で扱っている商品の仕入れ金額などをブログで会員向けに限定公開するような行為は、NGです。 3つ目は会社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合。 4つ目は、競業により企業の利益を害する場合。本業で得たノウハウを活用して、勤務時間外に競合する商売をするようなケースです。判断が難しいのは、本業を通じて獲得したスキルを利用した副業です。たとえばIT企業でエンジニアとして働いている人が、副業で他社のホームページをつくることもあります。このケースがOKかどうかの基準の一つは「顧客が被らないか」です。 本業で取引のある企業から副業で仕事を受けると、勤務先の仕事が減るなど、損失を与える可能性があるので、競業に当たる可能性があります。 ■最悪の場合、会社から損害賠償を請求されることも 勤務時間外であれば、原則自由に副業ができるわけですが、勤務時間内に副業をした場合には、どんな処分を受けるのでしょうか。たとえば、スマホを利用して株式投資をしたり、FX(外国為替証拠金取引)をするのも、副業に当たります。勤務時間中に売買していたとしても、バレる確率は極めて低いと思いますが、仮に上司に見つかったとしたら、懲戒処分を受ける可能性があります。 昼休みに副業する場合はグレーです。昼休みは午後の仕事に備えて心身を休める時間と決められています。タイミーなどのスキマバイトで1時間きっかり副業をするとなった場合、本来の用途と違った時間の使い方をしているとして、副業が認められないことも考えられます。 では、副業が発覚して解雇されるケースはあるでしょうか。たとえば、会社に内緒で顧客からの業務を自分の個人会社で請け負い、業務時間内に作業をしていたようなケースは、解雇が有効になる可能性があります。また、会社の看板を利用して、自分の個人会社に仕事を横流しし、その結果勤務先の売り上げが減少してしまった場合には、損害賠償を請求されるなど、さらに厳しい対応になる可能性もあります。ただ、これは非常に極端なケースです。 「副業をする場合には申請が必要」と就業規則で定めている企業もあります。法律上は申請する義務はないのですが、企業は前述の4つの禁止ケースに該当しないかを確認しなければなりません。申請したほうがお互いの信頼関係のためにもベターです。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年11月29日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 向井 蘭(むかい・らん) 弁護士、杜若経営法律事務所 1975年生まれ。東北大学法学部卒。2003年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2009年狩野・岡・向井法律事務所(現・杜若経営法律事務所)パートナー弁護士。経営法曹会議会員(使用者側の労働事件を扱う弁護士団体)。主に使用者側の労働事件を担当。労働法務を専門とし、解雇、雇止め、未払い残業代、団体交渉、労災など、使用者側の労働事件を数多く取り扱う。著書に『改訂版 書式と就業規則はこう使え!』(労働調査会)、『管理職のための ハラスメント予防&対応ブック』(ダイヤモンド社)など多数。 ----------
弁護士、杜若経営法律事務所 向井 蘭