ドイツの石工、ネットで石灯籠見て「どうやったら作れるのか」と来日…八女市に移住、師匠の工房引き継ぐ
石灯籠で知られる福岡県八女市長野地区。サンドロ・モリッツさん(45)がノミを使って少しずつ石を削ると、工房に砂塵が舞った。松の木に見立てた「自然木灯籠」は、1時間足らずで完成した。「師匠たちと比べるとまだまだです」。手にした灯籠に鋭いまなざしを向けた。 【写真】石灯籠などをドイツへ送る作業を行う。「八女の石灯籠は水を吸収しやすく、コケが付きやすいため欧米でも人気です」(10月22日)
故郷のドイツで石工の国家資格を取得。石造りの建物を修復していたサンドロさんを魅了したのは、ネットで見つけた日本の石灯籠や巨大な石の水車だった。「どうやったら、こんなものが作れるのか」
技術を学ぼうと2003年に来日。職人たちは、ドイツの石より軟らかい凝灰岩を大きなノミを使って素早く大胆に削った。それでも仕上がりは繊細で、自分にはまね出来ないと思ったが、1年間で4人に師事して確かな技術を身につけた。
05年、修業中に結婚した国武恵美さん(50)と帰国し、八女の石灯籠を輸入・販売する会社を設立した。欧州では日本庭園の人気は高く、経営は順調だった。年に1度は八女に足を運び職人と交流を続ける中で、職人の減少や工房の廃業など、石工業界を取り巻く厳しさも目の当たりにした。
新型コロナの流行で日本との行き来が難しくなり、思いを募らせた。「自分がドイツとの架け橋になって、八女石工の伝統を守りたい」。2年前、妻と2人の子と八女市へ移住した。
約20年ぶりの同地区は、職人の高齢化が進んでいた。八女石灯ろう協同組合によると、1980年代に60軒以上あった石工房は、今では10軒にまで減ったという。この夏には、かつての師匠から引き継いだ工房で「サンちゃん石工房」を開業。石灯籠作りと輸出の手続きに追われる日々を送る。農家の手ほどきを受けて家族で茶畑を育てたり、祭りに参加したりと地域の絆も大切にしている。
「日本の若者にも、伝統的な職人の道に興味を持ってもらいたい」とサンドロさん。八女の石灯籠を世界に広めるため、ドイツからきた「侍」の挑戦は続く。(写真と文 浦上太介)