性的被害を受けた米国女性たちが声を挙げる #MeToo はなぜ巨大化したのか
バックラッシュ(反動)を恐れ始めた女性たち
「Morning Joe」という朝の人気ケーブルニュース番組でキャスターを務めるミカ・ブルゼジンスキー氏は今月19日、番組内で#MeTooムーブメントをめぐり、「女性が何か言えばそれでおしまい。私たちはそういう風にビジネスをするようになってしまったのでしょうか」と問いました。相方のキャスター、ジョー・スカボロー氏も、ある記者が告発者と直接話す機会もなく即時解雇された例を挙げ、「もしこれがこのムーブメントの行き着く先だとしたら、男性だけでなく誰にとっても危険な方向です」とコメントしています。 これより前の12月初めに、米国でもっとも有名かつパワフルなビジネスウーマンのひとり、Facebook最高執行責任者のシェリル・サンドバーグ氏が、その行く末について深い懸念をFacebookに投稿しています。この2カ月、毎日のようにパワフルな男性たちに対するセクハラ疑惑が浮上するなか、すでに「だから女性を雇うべきじゃないのだ」という声が聞こえてくるというのです。 彼女は2013年に出版した自著のなかですでに、64%の管理職がセクハラを心配して、女性の部下と二人きりになることを恐れていると書いています。今のムーブメントのさなか、管理職が部下をひとり出張につれていく際、ランチやディナーも含めた密接なマンツーマンのビジネス指導をする際に、わざわざ女性の部下を選ぶでしょうか。サンドバーグ氏は、そもそも職場の男女格差は女性に平等なチャンスが与えられてないことが最大の原因なのに、それが拡大してしまう恐れがあると指摘しています。
「ペンス・ルール」の時代がやってくる?
同じく12月初めに出たBBCの記事は、「今米国女性がささやいているのは喜びではない。懸念だ。反動への恐れだ」で始まります。「このムーブメントを止めたいと思っている人間は誰もいない。そしてムーブメントの宣伝と露出はカルチャーの変革の一助となるものではあるが、この地震のように強力なシフトには手綱が必要だ。魔女狩りではないのだから」とあります。男性の上司や同僚から魔女狩りをしている者という目でみられるようになるか、もっと悪ければ魔女そのものとみなされるか……。 今年3月末にワシントンポスト紙の記事が話題になったことがありました。ペンス副大統領は、夫人以外の女性とは2人だけで食事をしないと決めているというのです。理由は彼が敬虔なクリスチャンだから、というだけではありません。女性との「不適切」な接触とみられるあらゆる可能性を排除するためです。この記事が出てからというもの、コメディアンたちはこぞってこれをネタにしてペンス副大統領をいじっています。が、あまりに極端で当時誰もが「冗談でしょ?」と笑ってしまったこの「ペンス・ルール」が、ビジネス界を中心にニューノーマル、新たな常識になってしまうかもしれません。これは女性にとって明らかに逆風、逆行です。 このまたとない社会変革のムーブメントが、女性の雇い止めや重大決定がなされている場からの排除につながってしまうほど皮肉な結末はありません。今回のムーブメントが米国の大統領という世界でもっともパワフルな地位にまで到達し、それを揺るがそうとしている ── その力を信じつつ、しかし慎重に受け止めてコントロールするために何よりも必要なのは、やはり“告発者の言葉を信じること”、そして“告発者は真実のみを語ること”ではないでしょうか。 私たちは今、重要な分岐点に立っています。#MeTooムーブメントを誰もが「喜び」とともに振り返る未来を目指して、一歩ずつ確実に、真実に向かって進んで行くよりほか道はありません。