第159回直木賞受賞会見(全文)島本理生さん「今回は完全に恋愛は切り離そう」
デビューした頃の自分にどんな声をかけてあげたいか
共同通信社:共同通信の田村です。このたびはおめでとうございます。デビューのころのことを思い出されたりしているのではないかなと思うんですけれども、今、この地点からデビューしたころの自分に向かってなんと声を掛けてあげたいかということが1つと、それからこの18年間のことを振り返って、一言感想をお願いします。 島本:デビューのころを思い出すというよりは、正直7年前の最初に直木賞候補になったときのことをすごく思い出してました。『アンダスタンド・メイビー』っていう小説で初めて直木賞候補になって、受賞に至らず、今だから言えるんですけど、3年ぐらい夢に見ましたね。なのでやっぱりもう1回、同じ思春期の少女に対する性暴力だったり、虐待であったりっていうテーマでもう一度広く読んでもらえる小説を書いて、広く読んでもらうチャンスを得たいという気持ちがすごく強かったので、そういった点でも、今回この小説で受賞できてすごく良かったなというふうに思います。 共同通信社:18年振り返ってっていうところはいかがですか。 島本:でも、本当にまだまだ作家としての課題も、これからまた書きたいテーマなんかも膨らんでいるので、まだまだこれからだなというふうに思います。 司会:真ん中の方。
以前の小説とは書き方が違っているようだが、意図はあったのか
日本経済新聞:日経新聞、【ゴウハラ 02:16:06】です。おめでとうございます。思春期の少女に対する性暴力だとかそういったことについてもう一度書いてみて、それを読んでもらいたいということでしたけど、今回は、ただ語り手というか主人公というのか、言ったら臨床心理士の、もうすでに大人になって仕事のキャリアも積んでいる女性からの視点っていうのがあって、そこから、言ったら女子大学生を見ているという形になっています。こういうちょっと少し変わった視点を取られたっていうのは、前からの小説の書き方と違って、何かそこには島本さんの意図というのがあったんでしょうか。 島本:3年前に芥川賞候補になった『夏の裁断』という小説がありまして、そのときに選考もあったんですけど、読んだ読者の方も結構賛否分かれたことがすごく印象的で、ちょっと傷付いた主人公の主観で物語を語ってしまうと、なかなか大事なところが理解されづらいんだなということをそのときすごく痛感したんですね。なので、じゃあ第三者の視点にしてみたらどうだろう、複雑な内面っていうものを第三者がきちんと解説できる形で物語を書き直してみたらどうだろうっていうところからこの小説はスタートしました。 日本経済新聞:あと、言ったらキャリアの初期のころの作品で『ナラタージュ』っていうのがあったり、たぶん『ナラタージュ』のイメージが結構、昔からの読者の方には強いと思うんです。恋愛小説を書く作家さんだっていうイメージが強い。でも今回はこの中で出てきた、例えば男女関係というのはみんな恋愛なのかといえばそうでもない、片方は恋愛だと思ってても片方はそう思ってないし、実際、客観的に見てもそうではなさそうである。そんな複雑な関係が書かれてました。これもやはり、このキャリアの中で何か島本さんが得たものの反映なんですか。 島本:自分が書きたいものと恋愛を組み合わせると、どうもちょっと危ういものになりがちだなというのが長く書いて実感であったので、もう今回は完全に恋愛は切り離そう、むしろ恋愛だと思っていたらまったく違った、違うもの、危ういものっていうのはこの世にはたくさんあるっていうことをこの小説では書こうと思いました。なので今回はもう恋愛ではないものをというふうに決めてました。 司会:あと【もうお一方 02:18:46】。じゃあ。【サトウ******シテ 02:18:50】