ハイブリッド専用エンジン? アトキンソンサイクルとは
課題(1)ノッキングが起きてしまう
しかしである。ロングストロークにするとまずいことが二つある。まずは圧縮比が高くなりすぎてノッキングを起こしてしまう。もちろんロングストローク化と合わせて燃焼室の容積を上げれば圧縮比はキープできる。 ただ、頭を冷やしてよく考えると、それではただ排気量を増やしてエンジンを大きくしているだけだ。いつの間にか効率の話じゃなく出力の向上の話にすり替わっている。 それだとストロークアップする前と後で排気時に残っているエネルギーは変わらないことになる。そうではなくて効率をアップしたいのであれば、燃焼室の体積はそのままでもっと膨張をさせたいのである。
詳しい方はもうお判りの通り「それって圧縮比のアップじゃないの?」Yes! その通り。でも圧縮比を上げるとノッキングしてしまうのだから出口がない。「だったら」圧縮行程のストロークと膨張行程のストロークを変えればいいんじゃないか? アイディアは簡単だが、実際作るのは簡単じゃない。吸気の下死点と膨張の下死点をどうやって違う高さにするか? ホンダではこれを図のようなシーソー型のロッカーアームリンクと同調ギヤを使って実現した。シーソーの片側をクランクの半分の速度で回るエキセントリックシャフト(偏心シャフト)で動かして1回転目と2回転目で高さを変え、下死点の高さを変えるのである。これによって圧縮比に対して膨張比を1.4倍に増やすことに成功している。ちなみにここは分からなくて全然構わない、要するに、圧縮行程のストロークと膨張行程のストロークを機械的に変える仕組みを作ったのだということだけ分かればそれでOKだ。
次に比較図を見て欲しい。左にあるのが普通の4サイクルエンジンのクランク。右がアトキンソンサイクルのクランクだ。だいぶ複雑になっているのが分かるだろう。図を借りたついでにホンダが言いたいことを代弁しておくと、ここでコンロッド傾斜角(緑色の線の部分)の比較をしているのは、ピストンがシリンダーに擦り付けられる力が変わるので摩擦が減ってエコですよという話だ。 ただなぁ。そのためにこのいかにも重そうなロッカーアームを常時駆動するロスと引き合うかどうかはまた別だと思う。エコウィルの場合、エンジン回転を上げ下げせずに同じ回転数でずっと使うのでデメリットが表面化しにくいのだろう。 話を元に戻すと、こうなると今までの理論で使っていた言葉が使えなくなる。圧縮比とは圧縮前体積と圧縮後体積の比率。それは変わらないのだが、膨張後の体積は圧縮前体積より大きくなる。これを今までの様に同じものと見なして全部圧縮比という言葉で語るわけにはいかないから、こっちは膨張比という言葉で定義することになったのだ。つまりアトキンソンサイクルとは機械的な仕組みによって圧縮比より膨張比を大きく採ったエンジンということになる。