井上尚弥が「兄弟同時世界王者」を願う弟・拓真の現在地
悔しい思いをして取り逃がした世界が再び視界に入ってきた。しかし狙う階級は兄が4団体統一に王手をかけているバンタム級だ。 「世界となると体の大きさ的にも、減量をやっていてもバンタムが適正かと思う。父もそう思っている」 狙いたいのだが、狙えないというジレンマがあるが、兄の尚弥は、年末にも国内でWBO世界同級王者のポール・バトラー(英国)と4団体統一戦を実現できる方向で進んでおり、その後は、スーパーバンタム級へ転向する。そうなった時点で4つのベルトはすべて返上して空位となる。つまり拓真には、バンタムのどのベルトでも狙えるチャンスが出てくる。 「チャンスが来たときに一発で取りたい。ここで焦っても仕方がない。ここはひとつ踏ん張りどころとしていろんな経験を得て、世界戦が決まれば一発で取れるように今は成長の時期と思っている」 マッチメークをする大橋会長も、バンタム級のベルトの先を見据えた上で「来年には拓真を世界挑戦させたい」と断言した。 そして尚弥も、拓真との兄弟王者実現を心から願っている。 「兄弟同時の世界王者もあるけど、まずは拓真の目標がある」 拓真は古橋戦で緑色を基調としたガウンを着てリングインした。そこには、WBCの緑のベルトに重ね合わせた思いがある。ドネアは、拓真が敗れたウバーリをボディショットで倒してWBC王座に返り咲き、兄・尚弥への再戦切符をもぎ取ったのだ。 「あそこ(ウバーリ)で勝っていたら、あの(ドネアの)ベルトもオレが持っていたのかなという気持ちを頭の片隅に思いながらね。またそこを目指して頑張りたい」 アウトボクシングもインファイトもできる。カウンターを狙うボクシングに加え、強弱もつけられるようになり、試合中の対応力もアップした。古橋戦では、アッパーカットという新しい武器も手にした。世界へ再挑戦する資格は得た。そこが拓真の現在地。 「倒す」という詰めの部分に、兄・尚弥が持つインパクトが少しでもプラスされれば、兄弟世界王者達成の可能性は一気に高まるだろう。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)