金メダリスト対決でリベンジ優勝した伊調が東京五輪代表の最有力となったのか?
第2ピリオドの1分が過ぎたとき、再び、伊調にアクティビティタイムが指定された。このとき、タックルに入ろうとする伊調を、川井はしっかりと防いで守り切っている。結果、試合時間が残り1分目前、得点は2-0で川井がリードして試合は最終盤を迎えた。 残り1分を切ったとき、川井に初めてアクティビティタイムが指定された。今度は、川井が攻めなければならない。とはいえ、簡単には取らせてもらえず伊調に1点が加わり1-2となった。その直後、試合終了まで残り10秒足らずのタイミングで、前日の試合後に練習している様子が見られたがぶりで川井のバランスを崩すと、伊調が右足を深く捕らえてタックルから2得点。川井も、伊調の脚を抱えて返し技へと変えようとするが、伊調のタックルに抗えなかった。 金メダル対決を制しての優勝で伊調が東京五輪の代表争いで有利になったのか。実は、そうとも言い切れない。異様な緊張感のなか紙一重で勝敗が決まったのである。 逆転のタックルについて「どうやって入ったのか覚えていない」と伊調は振り返っている。 試合の総括がいつも理路整然としている彼女としては、とても珍しい。そして川井は具体的な試合内容には触れず、「負けたなという感じです」と答え、さらに「気持ちが守りに入ったということはない」と強く言葉を残し、言い訳をしたくないとばかりに足早にインタビューの場から去った。 もし、得点チャンスの巡り合わせが、川井ではなく伊調が先だったら、終盤に追い上げる川井が逆転する流れになっていたのかもしれない。つまり、実力差では無く、流れの違いで試合の行方が決まったと見られた。もし伊調に優位な点があったとすれば、今大会は挑戦者として挑めたことと、前日から試合を重ねることでレスリングの内容を本来の得意なことに軌道修正できたことだろう。 今回は、2年のブランクを経て復帰した伊調が挑戦者で、現役女子で最強の評価の川井が受けて立つ形が、なんとなく共通認識として広まっていた。だが、今大会の結果によって、今度は、川井が挑戦者として追いかけることになる。次に挑戦者の強みを発揮できるとしたら、川井のほうだ。 次の代表選考会は、2019年6月に予定される明治杯全日本選抜レスリング選手権大会。その大会で伊調が優勝した場合は、そのまま世界選手権代表となる。五輪出場資格大会にあたる世界選手権で優勝すれば、自動的に東京五輪代表に決定するため、日本女子のレベルの高さを考えれば、実質的な五輪代表決定戦と考えていいだろう。 もし明治杯でも負けると東京五輪への望みが絶たれる可能性が高い崖っぷちの川井は、逆転するために、さらに技も力も高めてくるだろう。また前回の五輪の頃のような筋力や動き、レスリング内容に「まだ戻せていない」という伊調は、これから6月に向けてさらにコンディションを充実させてくるはずだ。 「そのタイミングで勝った人間は、世界の誰にも負けないでしょう」と西口茂樹・強化本部長が言うとおり、伊調と川井による代表争いは、史上稀に見る高レベルの壮絶な戦いになるのは間違いない。東京五輪切符の行方を大きく左右する伊調vs川井の“第2ラウンド”が6月に再び実現することになる。 (文責・横森綾/フリーライター)