夫婦で第二の人生を 元ホークス・田之上慶三郎さんの笑顔が迎えるカフェ/福岡県糸島市
エプロンが似合うように
昨年11月にオープンしたカフェには、現役時代を知るファンも多く訪れる。4歳の息子を連れて福岡市西区から来店した会社員の井手孝太郎さん(37)もその一人だ。野球少年だった井手さんは、先発のマウンドに立つ田之上さんのことを、雲の上の存在だと思っていた。「まさか本当に会えるとは。あこがれの人と話せてよかった」と喜び、息子が田之上さんと打ち解けて過ごす様子に目を細めた。
その人柄を示すように、かつて苦楽をともにした仲間も、開店祝いを兼ねて姿を見せる。鳥越裕介さん、摂津正さん、森唯斗さん、中村晃さん――。後輩のテーブルにコーヒーを運んでいくと、一様に「すみません」と頭を下げられるらしい。「いや、これ仕事やで」。そんな会話が毎回のように交わされるそうだ。 店には、年明けに夫婦で訪れた小久保さんの色紙が飾られている。添えられた「一瞬に生きる」の言葉が、第二のプレーボールを迎えた田之上さん夫婦へのエールのように見えた。
居心地の良さもあり、ついつい長居していると、22年にノーヒットノーランを達成した東浜巨さんが店に現れた。「おー、来てくれたね」と笑顔で迎える田之上さん。「ファームで一番お世話になったコーチですから」と話し、注文したコーヒーが運ばれてくると、投球フォームの相談や体重移動など熱い野球談議が始まった。 「久しぶりにチョコを食べました。おいしいですねー」。店にいたファンらと気さくに写真に納まり、「また来ます」と店をあとにする東浜さん。「ありがとう」と見送る新人マスターの背中が印象的だった。
田之上さんがダイエーで活躍していた時代、球場のカメラマン席で何度もその雄姿を撮ってきた。気迫がこもった力強い表情が記憶に残っている。 カフェで迎えてくれた田之上さんは、確かに現役時代と変わらぬ堂々とした体格ではあったが、表情は終始穏やかだった。「エプロン姿がよく似合いますね」と声をかけると、「そう、最近よく言われるんですよ」と、この日一番の笑顔が返ってきた。
読売新聞