夫婦で第二の人生を 元ホークス・田之上慶三郎さんの笑顔が迎えるカフェ/福岡県糸島市
3人の子どもを育て、ずっと自分をサポートしてくれた妻のことを思い、「今度は自分が支える番だ」と考えた。 今季からホークスの監督に就任した小久保裕紀さんとは同じ学年で、退団の前は二軍の監督と投手コーチとして若手を指導してきた。決意を打ち明けると、「家族のことだし、仕方ないね」と理解を示しつつ、「でも本当にいいの? 納得しているの?」と気づかってくれたそうだ。
もう迷いはなかった。「人生には巡りあわせ、タイミングというものがあるから」と話す田之上さん。「自分は運だけなんですよ。34年ぶっ通しで、コーチまでやらせてもらえるなんて」。苦労人と呼ばれたかつてのエースの言葉が胸に響く。「念ずれば花開く、ですよ」と満面の笑みで言った。
”真剣勝負”でおもてなし
「楽しくやろうや」――。転身を決意した夫の言葉に、真喜子さんは「肩の荷が下りた思いでした」と話す。「昔は命令していたけど、今はされる立場です」と笑う田之上さん。妻の負担を少しでも減らせればと、洗濯や皿洗いも進んでやるようになった。真喜子さんは「昔は考えられませんでした。申し訳ないですねぇ」と、隣に立つ夫を頼もしそうに見上げた。
プロ野球という厳しい勝負の世界で生きてきた夫と、それを支えてきた妻。カフェでも中途半端な姿勢は見せない。コーヒーの専門家から豆の選び方や抽出法を学んで「うまさ」を追い求めている。木目の調度品が並ぶ店内には、日本に5台しかないというイタリア製のエスプレッソマシンがあり、コーヒー通の客をもてなす。 長く座っても疲れにくい椅子、保温効果が高い有田焼のマグカップなどにも夫婦のこだわりがうかがえる。「たとえ値段がはっても、自信を持って『おいしい』と言えるものでないと出せません」と真喜子さんは話す。
地域の力にもなりたいと、糸島産のイチゴやイチジク、ミカンなどと組み合わせて作ったチョコレートは、国内外から素材を取り寄せ、試行錯誤しながら半年以上かけて完成させた。 糸島産イチゴを使ったスムージーも人気の一品。旬の時期に朝採りしたイチゴを、味が落ちないように急速冷凍し、素材の甘さをほどよく生かしていると評判だ。