太りにくくて痩せやすい体質になる「ケトン体」とは?
世界の最新研究トレンドに見る「ケトン体」の可能性
■連載/阿部純子のトレンド探検隊 体内でケトン体を発生させて脂肪を燃焼させる「ケトジェニックダイエット」が国内外で注目されている。「ケト」とは、糖質の摂取量を抑えることで、体内にケトン体という物質を作りだして体内の脂肪の燃焼を促す食事療法のこと。日本でも浸透している糖質制限は、この仕組みを取り入れたダイエット法でもある。 【調査結果5つ】男性にとってスキンケアを継続するために重要なことTOP3、3位手軽に使える、2位価格、1位は?全世代の半数以上がスキンケアに興味はあることが判明 太りにくく、痩せやすい体質に導く新アプローチとして注目される「ケトン体摂取」について、慶應義塾大学名誉教授で日本抗加齢医学会前理事長の坪田一男氏、池谷医院院長の池谷敏郎氏による勉強会が開催された。 2000年から研究が進められているアンチエイジング医学で、アンチエイジングの基本とされるのがカロリー制限。必要な標準エネルギー摂取量に対して摂取量を7~8割に制限する食生活を継続すると、アンチエイジング効果が現れて長寿に繋がるといわれる。 「これまできちんと食事して栄養を摂った方が、寿命が長くなると思われていたので、カロリーを制限すると人は長生きするということは不思議かもしれません。 メカニズムはいくつかありますが、最初に注目を浴びたのが長寿遺伝子と呼ばれる『サーチュイン』です。2006年に、抗酸化作用を持つポリフェノールの一種でぶどうなどに含まれる成分『レスペラトロール』がサーチュインを活性化するとわかり、カロリー制限でもサーチュインが脚光を浴びました。 さらに研究が進んで、カロリー制限による長寿化に関わりがあると判明したのが『ケトン体』です。近年では認知症やがんの予防にも関与するのではないかといわれています」(坪田氏) 生命活動を支える三大栄養素の糖質・脂質・タンパク質はそれぞれ体内で代謝してエネルギーを産生する。加えて体内にはエネルギーを作り出す仕組みがあり、そこでエネルギー源となるのが「ケトン体」だ。 栄養素が十分に供給されているとき、体内ではまず糖質がエネルギー源として使われ、脂肪が燃焼され始める。しかしその発動はゆっくりで、糖質が枯渇すると、筋肉中のタンパク質が分解されてエネルギー源として使われる。 さらに、体内の脂肪酸から「ケトン体」が作り出され、ケトン体は血流を介して脳や筋肉、臓器のミトコンドリアを活性化し、エネルギーが産生される。脂肪燃焼とケトン体は『太りにくく、やせやすい体質』にするには欠かせない仕組みといえる。 しかし、体内でのケトン体産生は、厳しい糖質制限や運動が必要で、容易にはできないという現実がある。 「脳のエネルギー源にもなるケトン体産生は、20万年前のホモ・サピエンスの誕生から、飢餓と戦いながら生きてきた人類が築き上げた体の仕組みです。 体内に貯蓄された糖質、タンパク質や脂質を総動員して生存のためのエネルギーを作り出すため、中肉中背の平均的な体格の人間なら食事を摂らなくても水分摂取だけで、実は2か月程度は普通に暮らしていけるといいます。 しかしやっかいなのが、ケトン体が産生する状態まで至るには、かなり厳しい糖質制限や断食、摂取したエネルギーを大きく上回るだけの激しい有酸素運動が必要になるということ。 数年前から注目された糖質制限ダイエットは、体にとっての飢餓状況を意図的に作り出して、ケトン体産生を発動させるものなのです。 体内でケトン体を作り出すのは簡単にはいかないため、ダイエットも運動も続かないという人にはとても難しいもの。米国を中心に『ケトジェニックダイエット』が進んでいますが、食事で行う場合、糖質制限をハードにするという難点があります。 そこで最近注目されているのが、ケトン体を直接摂取する新しいケトジェニックダイエットです。食品としてケトン体を摂取すれば、運動とかカロリー制限をしなくても、直接的にケトン体の恩恵にあずかれるというわけです。 ケトン体を生成する食品はほとんどなく、中鎖脂肪酸100%で作られているMCTオイルやココナッツオイルは、ケトン体を生成してくれる食品として知られています。 こうしたオイルを摂るのも有効ですが、熱を加えられないため、ドリンクに混ぜたりサラダにかけたりと工夫しながら摂ることが必要となります。 海外ではサプリメントから菓子、飲料までさまざまな形でケトン体配合食品があり、グローバル市場は2029年には200億ドル超になると言われています。しかし、海外で流通しているケトン体の多くは、化石燃料を原料とした化学合成物で、日本では安心してケトン体を摂取できる方法はまだ確立されているとは言えません。 しかし、最近では発酵法による天然由来のケトン体が登場しています。天然原料を発酵させて作られた発酵食品であれば、サプリメント、ドリンク、スナックといった食品を通じて、日本でも安心してケトン体を摂取できますので、課題であった味も含めて、今後の商品化に期待しています」(坪田氏)