大東文化大学法学部が、総合型選抜の課題論文になる探究プログラム(高校生向け)を実施~記者が実際のプログラムを取材
グループワークとポスターセッション
午後は「ポスターセッション」。模造紙を広げながら、まずは議論を行い、それをグループでまとめていく。参加者の間で講義の理解度に差がある様子も見え、意見がなかなかそろわない班もある。教授陣や現役の法学部の学生たちがその様子を見て回る。 模造紙は2枚配られ、鉛筆で下書きをしたり、レイアウトを決めたりする作業をグループで行っていく。初対面同士での共同作業だが、参加者たちはきちんとコミュニケーションをとりながらワークを進めていく。そのスムーズさを見ていると、今時の高校生はこういったグループワークやプレゼン資料を作る授業を、日頃から経験していることが推測できる。 ポスターができ上がると、それを壁に貼っていく。発表の役割分担もグループで話し合い、決めていく。 A班から順番に発表。人前で話すのを得意とする参加者も目立つが、緊張した面持ちで一所懸命に発言をする参加者もいた。全部の班の発表が修了してから、シートが配られ、どの班のポスター発表が一番優秀だったかを投票し、また他の班への質問も記入される。 最後に堀川信一教授が登壇し、投票の結果を発表する。優勝した班のメンバーには、記念品として大東文化大学オリジナルのピーターラビットのマグカップが贈られた。
法学は暗記科目ではなく考えるもので、答えはひとつではない
堀川教授が全体の講評を行い、シートに書かれた質問も紹介する。 7班中6班が処分は重すぎるとした。「違反を重ねるほどに、順を追って重い懲戒を課すべきなのに、最初の懲戒が退職金なしの解雇は重すぎる。妥当性に欠ける」という班もあれば、「退職金ありの諭旨解雇にすべきでは」と、どの懲戒が妥当かを具体的に示す班もいた。 そんな中、C班だけは処分を妥当とし、その理由として「学校の就業規則があるうえで窃盗したため、処分の相当性は吊り合っている」「ニュースなどによる報道がされたため、学校の名誉を傷つけている」としているが、それに対して「名誉を傷つけたのならそれは名誉毀損になり、その行為に対して処分がされるべき。窃盗と名誉毀損は別なので、窃盗に対して懲戒解雇の処分がされるのは違うのでは」という鋭い指摘もあった。 最後に堀川教授はこう話した。 「このプログラムで何をやったかというと、『コンビニで支払った金額より、高いコーヒーを持っていった件について話し合った』わけではありません。法学とは暗記科目ではなく考えるもので、そして、答えはひとつではないということをみなさんは学びました」 参加者たちはどう感じたのか。埼玉県の公立高校3年生の男子はこう話す。 「法律は明文化されているので、文章を読めばいいと思っていましたが、人によって解釈が違うことを知ることができて面白かったです。グループワークでは『処分が重すぎるよね』ということで最初から一致しましたが、『じゃあ、なぜそう考えるか』については意見が分かれました」 また、都立高校の3年生は「法学は法律を暗記するものではなく、考える作業であることが体験できて新鮮でした。今回のプログラムに参加して法学部法律学科に進学したいという気持ちが高まった」と語った。 「考える」学びが高校生たちの心をつかんだようだ。 堀川教授は言う。 「昨年、法学部法律学科で始めた高校生向けの課題探究プログラムですが、今年からは6学科で行います。受験の前に大学での学びを体験することで、その学部・学科で何を学ぶかを知ってもらえます。去年のプログラムに参加して入学してきた学生たちは意欲が高く、1年生から論文を読むなど熱心に法学を学んでいます」 今回のプログラムを見ていても、温度差はあるものの、参加者たちは法律に基づいて考える作業に前向きに取り組んでいた。まず、基礎的な知識を得たうえで、思考を展開していく。法律は暗記ではなく、ひとつの事例を考察するにせよ、正解はひとつではない。こうやって入学後の学びを体験できるワークショップだった。
大東文化大学の探究プログラムを取材して
事前の予習授業は高校生にもわかるような、かみ砕いた刑法の説明だった。労働法の講義もそうだ。題材もコンビニで起きた総額数百円の窃盗事件と、高校生が興味を持ちやすいものを選んでいる。法学の入門編としては最適なプログラムといえよう。 法学に興味がある高校生にとっては、進学や学部選択のための参考になる。また、大学入試が多様化する中で、大学によるこうした新しい取り組みは大学の認知度向上につながるだけでなく、優秀な学生の確保にもつながるのだろう。
ダイヤモンド教育ラボ編集部