欧州発の強みを生かす--Vade買収で日本に本格進出するホーネットセキュリティ
メールセキュリティを主力するドイツのHornetsecurityは、同業でフランスを拠点とするVadeを2024年3月に買収し、Vadeの日本法人Vade Japanを通じて、日本市場へ本格参入する。Hornetsecurityの創業者で最高経営責任者(CEO)を務めるDaniel Hofmann氏に同社の強みや戦略などを聞いた。 Hornetsecurityは、Hofmann氏が2007年にドイツのハノーバーで創業した。メールセキュリティにおけるガバナンス、リスク、コンプライアンス(GRC)を主力とする中で、2018年に同じドイツのセキュリティソフトウェア企業Aviraのスパムフィルター部門の買収を契機に、買収と統合を通じたグローバルでの事業拡大を加速。欧州を皮切りに英国や北米、南米、アフリカ、オーストラリアへ広げ、Vadeの買収で日本にも到達した。現在の進出先は約120カ国・地域で、約7万5000社の顧客を保護している。 Hofmann氏は、「近年は150%ペースで成長している。われわれの成長戦略は、適切な市場と企業を慎重に見極めつつも、スピーディーな意思決定を行い、進出先におけるビジネス、パートナーと関係、製品、サービスをより良い形で統合していくことにある。現在このような戦略を採用しているのは米国企業くらいだが、欧州発ではわれわれが最後ではないか」と話す。 3月に買収したVadeは、2009年創業とHornetsecurityよりやや後発ながら、大手通信事業者やサービスプロバイダーを主な顧客として、特に「Microsoft 365」向けのメールセキュリティサービスを強みとする。日本ではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなどが採用し、約1億5000万個のメールボックスを保護している。 「日本市場に進出しているVadeの買収は、一連の取り組みにおいて最大になる。これにより、日本市場でも既に大きな立ち位置を確保することができた」とHofmann氏。買収完了後は「Hornetsecurity Vade」にリブランドし、既に事業の約8割を統合しているとのこと。日本向けには、10月にVade Japanを通じてHornetsecurityのセキュリティトレーニングサービス「Security Awareness Service」を2025年上半期に提供すると発表した。 この取材でHofmann氏は、「これから日本市場へ14の製品を順次展開する。まずDMARCの運用管理を支援する『DMARC MANAGER』をリリースする」と明かした。 DMARC(Domain-based Message Authentication Reporting and Conformance)は、送信メールの正当性を示す送信ドメイン認証技術の1つで、送信元などを詐称するフィッシングから正規の組織やブランド、メール受信者を強力に保護する技術として注目されている。ただ、実装や運用の難易度が高く、慎重な対応が必要とされ、近年まで普及ペースは鈍かった。 しかし、Googleが2024年2月に「Gmail」のポリシーを改定し、多数のメールを送信する事業者に対してDMARCへの対応を求めるようになった。Hofmann氏は、「世界的にフィッシングなどの迷惑メールが問題となり続ける中でも、組織の80%以上がDMARCなどを適切に設定していないといった実態がある。Googleの新たな取り組みは、多くのサービスプロバイダーにも影響するだろう。DMARC MANAGERは、この対応をサポートするものになる」と説明する。 同氏は、DMARC MANAGER以外にMicrosoft 365向けのメールバックアップなど、企業利用が多いMicrosoft 365向けのメールセキュリティ機能の提供を日本で拡充していく考えも示した。また、パートナーと顧客に対応する責任者を置き、パートナービジネスの安定化や顧客の持続的な保護にも真剣に取り組み、日本市場特有のニーズに対応していくとも述べる。 欧州に拠点を置く企業として同氏は、「例えば、米国のITベンダーは突然に買収されたり、製品やサービスが提供されなくなったりするようなことがあるが、われわれは買収する側にあり、財務面でも安定しているので、これからも安定してビジネスに取り組むことができる。また、欧州はデータの保護や管理などに関する規制がとても厳しく、そのような市場で培った経験や信頼が、ほかの地域でのビジネスにおいても評価されている。欧州起点であることは、われわれやパートナー、顧客の自律性という点でも良い点になっている」と話している。 (修正:初出時に同社の保護実績に関し不正確な記載がありました。お詫びして訂正いたします。)