スロースタートだが多様化・商品性の拡大が進む:セキュリティ・トークン(デジタル証券)2024年度第1四半期振り返り
株式に負けない魅力
株式に負けない魅力という意味でも、6月のケネディクスの案件は注目される。これまで不動産STのメリットとしては「投資の手触り感」があげられ、運用マネージャーが物件を選定し、入れ替えをするポートフォリオに投資するJ-リートとは違って、投資している物件が明確なことが特長とされてきた。不動産の持つ「わかりやすさ」が不動産STの特長でもあった。 だが、「ケネディクス・リアルティ・トークン Kolet-1(譲渡制限付)」は、ケネディクスが展開する賃貸戸建シリーズのポートフォリオ(484戸/462物件)を対象とするユニークな商品。J-リートと不動産セキュリティ・トークンの中間のような商品とも言える。 セキュリティ・トークンの取引・管理基盤「ibet for Fin」を手がけるブーストリー(BOOSTRY)は4月、日本のセキュリティ・トークン市場総括レポートを公表。そのなかで今後の展望として「2023年度はセキュリティ・トークンの活用が実証実験から実用段階に移行した期間となりました。発行額や商品性、取り扱い金融機関の拡大は2024年度も拡大が見込まれます」と述べている。この案件は、商品性の拡大のひとつの例と言えるだろう。
商品性の拡大
さらに商品性の拡大という意味では、第1四半期からは外れるが、7月、映画製作委員会への出資をセキュリティ・トークン化したユニークな商品「映画デジタル証券・フィルムメーカーズプロジェクト1 – HERO’s ISLAND」が登場した。 関連記事:1口10万円で映画製作に参加、金融の可能性にチャンレンジ──映画『宝島』をセキュリティ・トークン化:フィリップ証券【発表会レポート&CEO Q&A】 先日、CoinDesk JAPANを運営するN.Avenue代表取締役の神本侑季とのXスペースでの会話のなかで、ST基盤のシェアをibet for Finと分け合うプログマ(Progmat)の代表取締役 Founder and CEOの齊藤達哉氏は、この映画STについて、STに対する既成概念を打破してくれたと語った。 齊藤氏は、不動産を対象アセットとしたST商品に携わる立場から、金融商品として堅実・確実なものを届けることを意識していたが、映画STのスキームを見て、「こういうやり方もあり」と考えさせられたと述べた。 例えば、映画STは予定利回りを明らかにしていない。不動産STでは考えられないことだ。だが映画という大成功もあれば、大失敗もあり得る商品を対象としている以上、想定とはいえ、利回りを書くことはある意味、無責任とも言える。 さらに言えば、この映画STに投資する人は、確実な利回りを求める人ではなく、映画づくりを応援したい人、さらに言えば映画づくりに参加するという夢を買う人と言えるだろう。 過去にもクラウドファンディングで映画づくりを応援し、見返りとして劇場チケットなどが得られる事例などはあった。だがセキュリティ・トークンならば、応援し、完成した作品を見るのみならず、作品が成功すれば、リターンを得ることもできる。また作品をアピールし、周囲に勧めることは作品の成功につながり、自分にもプラスになる。 商品性の拡大という意味では、映画STの登場によって、セキュリティ・トークンは大きな一歩を踏み出した。ブーストリーは、2024年度のセキュリティ・トークン市場の規模は1700億円程度に拡大すると見ているという。第1四半期の156億円からどのような展開を見せるのか、スローペースが思いがけず続いてしまうのか。 ● なお、直前だが本日8月6日18時~、「映画デジタル証券・フィルムメーカーズプロジェクト1 – HERO’s ISLAND」の販売を担当するフィリップ証券の代表取締役社長 永堀真氏に、N.Avenue 神本侑季がXスペースで映画STについて話を聞く。映画STに取り組んだ背景、苦心した点など、リアルに知りたい方はぜひ、参加してください。 【8/6 18時~ Space開催!🎙️】 「10万円で映画『宝島』の製作に参加可能」。史上初・映画のセキュリティ・トークン化の販売を担当する、フィリップ証券代表取締役社長永堀様をお招きして詳しくお話お伺いします。 @PhillipSecJapan https://t.co/uKnS9ovoVH ― CoinDesk JAPAN (@CoinDeskjapan) August 2, 2024 |文:増田隆幸|画像:2023年度最大のST案件となった「月島‐リバーシティ21イーストタワーズII」(ケネディクス)
CoinDesk Japan 編集部