作家・金原ひとみさん 恋愛、過去の傷への向き合い方…「この物語は中年版『君たちはどう生きるか』です」著書『ナチュラルボーンチキン』
【BOOK】 <この物語は、中年版『君たちはどう生きるか』です>と、金原ひとみさん。自分の限界が見えてきてから人はどう生きるかを問いかけた。価値観のアップデート、40代からの恋愛、過去の傷への向き合い方…。中年の普遍的な悩みが描かれる本書は、現実的な物語である。同時に、ラストに訪れる奇跡に心臓を掴(つか)まれる、希望の物語である。 ◇ ──ルーティン生活を送るひとり暮らしの浜野文乃(あやの)、45歳。仕事への矜持(きょうじ)も特別な趣味も恋人もなく、職場と自宅を往復し、波風の立たない日々を送る。性別問わず、こういう中年、少なくないと思います 「担当編集者に、肉と野菜を焼き肉のたれで炒めたものを毎日食べているという人がいたんです。私は同じことを繰り返すのが苦手なのでびっくりしたのですが、その編集者は充実している様子がうかがえたので、なぜだろうと。自分には理解できない生活を送る人を書いてみようと思いました。自分もこんな感じです、とけっこう言われるので、書こうと思った直感は間違ってなかったんだなと思っています」 ──そんな彼女が変化していく物語です。<中年はどう生きるか>をなぜ書こうと思われた 「私自身も40代になり、10年後はこんな感じかな、と予測がつくようになってきましたし、40代で現場への意欲を喪失する編集者を見てきました。中年になると体力が衰えたり、社会的な立場が変わってきたりで、やりたいことに突っ走れる状況ではなくなってきます。だからこそ、ここから人生を拡張していくにはどうしたらいいかを考えたいと思いました」 ──浜野が変化するきっかけは、価値観の異なる他者との出会い。スケボー通勤、ホストクラブ通いの編集者・平木直理と、悪魔的なバンドマン<かさましまさか>。二人のキャラが最高です 「ある時、近所を歩いていたら、電話をしながらスケボーに乗った女の子が、けらけら笑いながら駆け抜けていったんです。一瞬、LAの風が吹いた気がして、平木さんのモデルにしました。まさかさんにもモデルがいて、あるバンドのボーカルのビジュアルイメージだけをもらっています。浜野さんを新しい体験に連れ出してくれる存在として二人を登場させましたが、彼女の日常を否定したかったわけではありません。それぞれがインディペンデントな存在であるという前提の上で、生活を明るく彩るような関係性を築けるのが、中年の良さではないかと」 ──一人で生きていくはずだった浜野の人生に、〝まさか〟が入り込んできます。中年にも恋愛は必要でしょうか