[MOM4778]川崎F U-18FW香取武(3年)_「ゴールの仕方を忘れてしまっている自分が情けなくて……」 2か月近く得点のなかった悩めるストライカーが重要な決戦で鮮やかな復活弾!
[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ] [7.25 クラブユース選手権(U-18)GL第3節 川崎F U-18 4-0 鳥栖U-18 ロード宮城総合運動場 陸上競技場] 【写真】伊東純也ら日本代表トリオがパリ観光! サングラス&私服姿に「三つ子みたい」「まじで顔小さい」 ストライカーというのは、ゴールを求め続ける生き物だ。いつだって頭の中には、どうやってゴールを奪うかが、どうやってゴールパフォーマンスを決めるかが、グルグルと回っているような種族だと言っていい。裏を返せば、一番苦しいのはゴールから遠ざかっている時。その心情は、絶対に彼らにしかわからない。 「ここ最近はゴールがない状態が続いていたので、ゴールの仕方を忘れてしまっている自分が情けなくて……。この試合ではチームのために得点もそうですけど、走ることでも何でもいいから貢献したい気持ちだったので、そこで得点という一番良い形で貢献できたことは本当に嬉しいですし、次に繋がる1点だと思います」。 悩める9番の華麗なる復活弾が呼び込んだ、奇跡のグループステージ突破。川崎フロンターレU-18(関東4)が誇るストライカー。FW香取武(3年=川崎フロンターレU-15出身)のファインゴールは、苦しみ抜いてきた時間を帳消しにするような、最高の1点だった。 今シーズンの幕開けは上々だった。プレミアリーグEASTの開幕戦では、貴重な逆転ゴールをマークして勝利に貢献。2節のFC東京U-18戦では2ゴールをマークし、試合後にはサポーターの前で“バラバラ”の歌い出しの音頭も取っている。クラブユース選手権予選に入る中断前までのリーグ戦では7試合で4得点。手応えは間違いなくあった。 ただ、以降はまったくと言っていいほどゴールに恵まれなくなっていく。「『ゴールってどうやって獲るんだろう……』という、ちょっとパニックみたいな感じになってしまっていて……」。5月中旬のプレミアリーグで得点を挙げてから、その歓喜を味わえないままに、気付けば2か月近い時間が経っていた。 迎えたクラブユース選手権。日程変更で初戦となったブラウブリッツ秋田U-18(東北2)戦にはスタメンで出場したものの、シュートを打てないままにハーフタイムでの交代を命じられると、チームはまさかの逆転負け。ベンチスタートとなった2試合目は、チームが勝利を収める中で、出場機会すら訪れなかった。 グループステージ突破の懸かる大事な3試合目。サガン鳥栖U-18(九州4)との決戦も香取はベンチスタートとなったが、追い込まれたストライカーはもう腹を括っていた。「今日はオレが絶対にゴールを決める」。出番が来ると信じ、アップエリアで神経を研ぎ澄ませていく。 後半7分。ピッチサイドに9番の姿が現れる。まだスコアは動いていない。最低でも2点は必要な状況。ストライカーにとってみれば、最高のシチュエーションだ。「後半の途中までは0-0だったので、正直みんなも絶望を感じ始めていたかもしれないですけど、自分が入って『絶対に流れを変えてやる』という気持ちでした」。気合をみなぎらせて、ピッチへと駆け出していく。 18分。右サイドからDF柴田翔太郎(3年)が上げたクロスに、懸命に合わせたボレーは枠を外れる。24分にDF林駿佑(2年)が、25分にMF平塚隼人(2年)が続けてゴールを奪ったものの、他会場の結果を受けて、チームはもう1点が必要な状況に陥る。31分。MF八田秀斗(3年)のクロスから、ニアに飛び込んだヘディングもゴール右へ逸れたが、諦めない。「次はオレが決める」と信じて、ボールを叩き込むべき場所を睨み付ける。 32分。MF楠田遥希(2年)のパスからFW恩田裕太郎(2年)が左サイドを抜け出した時に、もう道筋は見えていた。「前に恩田がハッキリとタ―ゲットという形でいて、その下に付けば相手のディフェンスラインが絶対に下がった状態になるので、自分が決めるイメージはできていました」。必死に呼び込んだボールが、足元に入ってくる。 右足でトラップ。右足で持ち出して、左足でズドン。右スミに打ち込んだボールが、ゴールネットを激しく揺らす。「アレは自然に出た感じです。今日は得点しかいらなかったので」。その場でこぶしを固め、下を向き、噛み締めるように叫ぶ。それはようやく獲物を捕らえた獰猛なストライカーが見せた、魂の咆哮だった。 「僕はもう何点必要かとかは正直考えられていなかったですし、がむしゃらにやっていたので、勝って気付いたという感じです」。さらに恩田も4点目を奪った川崎F U-18は得失点差でヴィッセル神戸U-18を上回って、グループステージ突破を決める。公式戦で数えれば実に74日ぶりに挙げた香取の貴重なゴールが、チームの窮地を鮮やかに救ってみせた。 長橋康弘監督は香取について、こう言及している「彼はスタメンを外れてしまった時でも、絶対に下を向かずにやるんですよね。そういう子はやっぱりやるんだなと思いますし、私も『武ならやってくれる』と思って交代できるんですよ。あのゴールは彼の努力だと思います」。指揮官も信じていた。ストライカーの意地を。9番の底力を。 試合が終わってから少し経っていたものの、この日の主役は高揚した表情で取材エリアへ現れた。「本当に今も鳥肌が立っていて、ゴールの余韻というのが鮮明にある状態なので、興奮しかないです。今日はゴールを本当に狙っていましたし、今日はゴールの形が明確に見えたので、自分にとって大きな一歩だったと思います」。言葉の端々からも興奮が伝わってくる。 3か月ぶりに“バラバラ”の歌い始めを担ったことを問われると、少しだけ笑顔が浮かぶ。「アレは気持ちいいですね。その日の試合で良かった選手ということで。あそこに立ったらMVPだと思うので(笑)。でも、もう総力戦なので、自分の点もそうですけど、チームで勝てたことが嬉しいです。次も絶対に勝って、優勝できたらこれが歴史に残る大会になると思うので、チーム一丸となって、自分も点を獲って、チームを勝ちに持っていけるように頑張りたいです」。 川崎F U-18が新たな歴史に辿り着くための流れは、この日の勝利で確かに見え始めたと言っていいだろう。7月31日。西が丘のピッチで水色のサポーターを前に、再び自分が“バラバラ”を歌い出すため、ようやく誇りを取り戻した9番のストライカーは、これからもひたすらゴールだけを追い求める。 (取材・文 土屋雅史)
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