テニス界第4の女、奈良くるみの可能性
攻撃につながる綿密さ
試合ごとに大会本部が出すデータの中に、〈アンフォーストエラー〉という項目がある。自分からのエラー、つまり凡ミスと訳すことができるのだが、奈良の1回戦のアンフォーストエラーは0だった。相手に攻められてのミス、つまりフォーストエラーとの境界線は主観的なもので必ずしも明確ではないが、2人で85ポイントを奪い合った1時間2分の試合で一本もミスがなかったという評価は、驚嘆に値する。 「しつこく返すということは、最初から狙っていたわけじゃなくて、ショットの精度を上げることに取り組んできたら、結果的に粘りにつながった」 ミスがないからといって単純に「粘り型」「守り型」とカテゴライズされることに、奈良は軽い抵抗を見せた。 日本のテニスは伝統的にディフェンシブ(守り型)と言われ、75年にウィンブルドンの女子ダブルスで優勝した沢松和子の頃には「攻撃的防御」という言葉がもてはやされた。奈良の目指しているテニスは、それとは根本的に違う。緻密さで攻める――ヤンコビッチとの試合で元女王を上回るウィナーを奪うことなど、守り型ではなしえない。緻密さが攻撃につながった証拠だ。 重要なことは、奈良にその戦略を支持してくれる理解者がいたことだ。村上氏は「僕たちは早い段階から、奈良の持ち味を伸ばせば必ずグランドスラムで活躍できると考えていました」と言う。確信があったとはいえ、いや、あったからこそ喜びもひとしおだっただろう。 あとは、奈良が今回のようなプレーを持続できるかどうかだ。それができれば、トップ50は遠くない。 (文責・山口奈緒美/テニスライター)