「たらこスパゲッティ」「ランチパック」元祖から遠ざかるほど進化する食文化(レビュー)
トマトケチャップで味付けしたナポリタンが、イタリアの郷土料理なんかじゃなくて、日本生まれだってことは、みんな知っての通り。ほかにもトンカツやラーメン、カレーなど独自の進化を遂げて、日常生活に根付いている料理は少なくない。 和食とは言えないし、洋食でも中華でもエスニックでもない、なんとも呼びようがなかった料理のジャンルを「ネオ日本食」と名付けたのが本書だ。タイトルに膝を打った。言い得て妙とは、まさにこのこと。 海外由来の料理を、食材や調理法を工夫して日本人の口に合うようにアレンジすることを「ネオらせる」と表現している。クロスカルチャーの魅力が伝わってくる言葉だ。 著者は、現代文学や漫画、食文化について取材執筆しているライターで、東北芸術工科大学准教授としてサブカルチャー関連講義も担当している。パンケーキについての本を出版したのを機に、ネオ日本食の食べ歩きを始めたそうだ。 本書ではインタビューが主軸に据えられている。終戦直後からホットケーキを焼き続けている喫茶店のマスター、豚肉のアイスや醤油のジュレが入ったユニークな創作パフェの店、次から次に新商品を出し続けるランチパックの開発担当者……。さまざまな「ネオらせ方」について経緯や思いを聞いて歩いている。 たとえば36種類ものたらこ・明太子スパゲティをメニューに並べる専門店。たらこスパの元祖とされる店で先代が食べて、「これだ!」と作るようになったけれど、まったく違う味になっている。それがいいのだ、と飛躍を称賛する。 〈そうやって元祖から遠ざかっていく進化・発展ぶりがネオ日本食のおもしろいところ〉 古き良き伝統や美意識を受け継いでいくことも大切だけど、読んでいるうちに、軽やかなハイブリッド感覚こそが日本の食文化の王道なのかも、と思えてきた。 [レビュアー]篠原知存(ライター) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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