【井田千秋氏インタビュー】漫画執筆で自問自答の嵐!? 注目作家の初のエッセイ漫画『ごはんが楽しみ』のこだわりとは?
――「喫茶店で隣のテーブルの雑談が耳に入ったくらいの気楽さ」というトーンに納得です。軽やかな語り口で、非常に読後感が良かったです。同時に、コマ外にもエピソードにまつわる料理や小物が描かれていて、見応えのある作品に仕上がっているのも魅力だと思いました。 井田:先ほど淡々と……とお話ししましたが、本として見栄えや魅力もほしい。前作の期待値で手に取られる方も多いと思ったので、画面の華やかさも大事にしました。今回は文字量が多いこともあり、見やすさを考えて比較的シンプルなタッチでまとめることとしましたが、メインになる食べ物や小物をカラーでしっかり描くことで、良いアクセントになると思いました。話が淡々としている分、良いリズムもできるかなと。また、挿絵的に女の子の絵も描いたのも同様で、これも前作からのイメージの差異をなるべく減らしたかったのと、画面を賑やかにするため。ちなみに、人物イラストが入るとそれを自画像と取られかねないので、私をクマの姿としたのもそれが理由の一つです。 ――食べ物を描く際のこだわりポイントを教えてください。 井田:食べ物などしっかり描き込む絵は、基本的に自分で撮った写真をもとに描きましたが、写真そのままにならないようにはしたいなあと思っています。どこを美しいと思うか、おいしそうだと感じるのか、そのポイントを分かりやすく表現したくて艶や焦げ目を強調してみたり。つい描き込みすぎてしまうから、うるさくならないよう気をつけました。今回は文字も絵も詰め込んでしまったので、文字を含めた画面のバランスにも悩みました。
純粋に食べることが好き。食器の力に助けられることも
――エピソードを拝見していると、井田さんは料理が億劫に感じられるタイプではなさそうですね。いつから料理には親しんできたんでしょうか? 井田:大学進学から親元を離れて自炊を始めました。食べたいものを自分で作れる、そのままかもしれませんが、それが料理の良いところな気がします。億劫に感じて便利なものに頼ることも頻繁にあります。それでも料理自体が嫌いにならないでいるのは、適当にやっているゆるさが良いのかもしれません。あと、できるだけおいしいものが食べたい。料理というか、純粋に食べることが好きなんでしょうね。本作でも描きましたが、食器集めが楽しくなってからは「このお皿を使いたいから今夜はこれ」といった発想になることも。食関連の好きなもののパワーも大きいかもしれません。料理は盛り付けでネギやパセリ、薬味を添えた時の「できあがり」の瞬間が好きです。絵の仕上げにツヤを入れるみたいな感覚に似ています。