【大人の群馬旅】前橋で見つけた極上のパン
さらに、パンの骨格をなす素材選びにおいても、久保田さんの信念は揺るぎない。群馬県産へのこだわりに加え、大切にしているのは小麦農家から直接買い付けること。珈琲ロースターが、豆の産地や農園の人の顔を浮かべながら焙煎をし、香り高い一杯を抽出するように、パンにおいても小麦を育てる人や畑の臨場感を抱くことで、“この土地でしか作れないパン”ができると信じている。 無骨な丸みを帯びた「パン コンプレ」は、群馬県藤岡市の福田農園の小麦を自家製粉。3種類の自家培養種を用いて18°で18時間かけて発酵させることで、挽き立ての全粒粉の甘みが損なわれることなく穏やかな酸味のパンに仕上がり、肉料理との相性が抜群だ。地元の素材への思いを商品名に冠した「地粉の酵母スコーン」は、同県太田市の上原ファームの農薬不使用の小麦粉からなる。自家培養種の発酵風味とイチジクが織りなす優しさは、野山へ連れ出して味わいたい。 今回の滞在で宿での夕餉に求めたのは、出汁のようなパワフルな旨味と酸味が調和した「カントリー」だ。「Three Brown」で求めた「ジル」やグリルしたカチョカバロとともに味わうと、抜けていたパズルのピースがぴったりハマる感覚を覚えた。まるで普段の生活で指の隙間からこぼれ落ちてしまう、自分の欠けた部分を埋めるよう──パンを噛みしめながら、そんな充足感に満たされた。 住所:群馬県前橋市日吉町2-5-1みずき館 電話:027-257-9052 BY TAKAKO KABASAWA