超巨大ヒマワリも存在する自然豊かなブータン。「世界一幸せな国」にも意外な課題があった
造園家の齊藤太一さんが、世界中の地球と共鳴する心地よい居場所=「グラウンドスケープ」を求めて旅に出ました。今回紹介するのはブータン。「世界一幸せな国」として有名ですが、植物の原種の多さからプラントハンター注目の地でもあるのだそう。 【写真集】幸せの国ブータンが抱える意外な課題。人と自然のあるべき関わり方とは? 豊かな自然に囲まれたブータンの地で、齊藤さんは何を思ったのでしょうか?旅先で発見したこと、感じたことを語っていただきました。 【Profile】 齊藤太一(さいとう・たいち)/岩手県生まれ。高校在学中から造園の仕事に携わり、2011年株式会社DAISHIZENを設立。個人宅の庭から、話題の商業施設のグリーンプロデュースなど、幅広い分野で活躍する“緑のディレクター”。自身でも農場やボタニカルショップ、宿泊施設を展開するなど、さまざまな形で“自然と触れ合うライフスタイル”を提案しています。
「世界一幸せな国」として有名になったブータン王国。亜熱帯から8000m級の高山までが共存するめずらしい環境で、標高によってがらりと変化する植生や、人の手の加わっていない原種の豊富さから、薬学分野など専門的プラントハンターにとって聖地と目される場所です。僕は今、この自然資源を21世紀の視点で生かし、国民のための産業に変えていこうとするプロジェクトに関わっています。 ブータンの第一印象は、時間が止まってしまったよう、でした。国土の70%が手つかずの自然に覆われ、国民の約6割が僧侶。そんな昔ながらの生活のなかに、インドとの交わりを通して、徐々にペットボトルやビニール袋が入ってきているのですが、土に還る素材しか知らない人々はその辺にポイポイ捨ててしまい環境問題になりつつある。自然があたりまえすぎて、守るべきものという認識はまったくないんです。
自然があふれているという恵まれた環境こそが、自然へのリスペクトを阻んでいる、という事実。植生の豊かさにテンションが上がった一方で、人間と自然との関わり方という点では大いに考えさせられましたね。グランドスケープにおいても、単にもとあった自然を戻せばOKじゃない。今のライフスタイルに合った「新しい自然」を考えつくっていくことが必要なんだ、と。 新型コロナウイルスの脅威にさらされた世界は今、まさに創世記。新しい基準や価値観が誕生しようとしているなかで、本当に大切なことは何か、選ぶべきものは何かと、多くの人が問い直しているのではないでしょうか。 合理化とハイブリッドが進んだ社会をリセットするのは難しい。でもここでなら、誰かの利益ではなく、地球のための「フィールド・オブ・ハピネス」は実現できるんじゃないか。資本主義の手がまだ届いていないブータンで、多様な原種の植物を前に、そんなことを考えています。 --------- ブータン建国の父、ガワン・ナムゲルによって建造された城塞「プナカゾン」への行き方は、ブータンの首都ティンプーから西部の都市プナカへ向かうバスで2時間半ほど。「父川(ポチュー)」と「母川(モチュー)」の合流地点に建ち、神殿では独特な壁画を見ることができます。訪れた際はブータンのあふれる自然を堪能しながら、今のライフスタイルに合う「新しい自然」について考えてみるのもいいかもしれません。