孫正義の“むちゃぶり”から「逃げ出す人」と「耐えられる人」のシンプルな思考の違い
井上 孫さんからのむちゃな要求に対して、川邊さんはどのように反応していますか? 川邊 ソフトバンクグループの中では共通言語のようになっていますが、孫さんからの指示や問いには「イエス・バット(Yes, but)」で対応しています。 まずは肯定的に応じ(Yes)、その後で考えます。もしも3週間では難しいと判断した場合は、「考えてみましたが(but)、やはり難しいです。でも、この部分だけなら1カ月でできます」と現実的な提案をします。ほとんどの場合、孫さんは納得してくれます。 要求水準は高く、スケールやスピードは私たちが考えるよりもはるかに大きく、速いです。こちらの想像の10倍、あるいは100倍を求めてくるので、チャレンジするのはなかなか大変です。 ● 孫正義と仕事をするうえで 欠かせないものとは? 井上 私は川邊さんの芯の強さをすごく感じています。人当たりはとてもソフトだけれども、仕事に対しては頑固で、最後までやり通すという印象です。この姿勢や強さは、誰かから影響を受けたのでしょうか? 川邊 私は青山学院初等部に入学してから、大学卒業まで青山学院に通っていました。そういう育った環境が私にとって大きな影響を与えたと思います。 何でも仲間と楽しむ、遊びの一環としてさまざまなことにチャレンジしてきました。大学在学中に電脳隊という会社を起業したことも、その一環でした。仕事を通じて思い出を作るという側面はあります。 また、「メタ認知」は孫さんと仕事をするうえですごく役に立ちました。自分がどういう状況にあるのか、客観的に理解することで、苦境にある自分を俯瞰して楽しむことができました。それで、ここまで耐えてこられたと思います。
孫さんは完全なオーナー経営者であり、どんなに困難な状況に陥っても最後は責任を取らないといけません。しかし、私は雇われ経営者ですから、困難な状況から逃れる方法はいくらでもあります。 しかし、そこで逃げ出すのではなく、孫さんのもとで苦労していることを客観的に捉え、自分が苦境にあることを笑い飛ばすような考え方をしてきました。 それができたからこそ、孫さんのむちゃぶりに耐えられたのでしょう。やはり、メタ認知は重要です。ただ「孫さんと仕事をすることは大変だ」と思い続けていると、その人は会社を辞めたり、燃え尽きたりするかもしれません。 私はメタ認知を通して、「なぜ孫さんと仕事をすることで大変な目に遭っているのか?」と困難な現状に思いを巡らせると同時に、「でも何か面白いことが起きている。これはすごい思い出になるだろう」と将来の楽しみにも思いを馳せる。時間軸も俯瞰することで、中長期で自分の置かれた状況を捉えていました。 ● 交渉決裂直後、 その場で幹部と話し合い 井上 その考え方は、宮坂学さんと似ているかもしれませんね。ちなみに、孫さんの要求を断ったことはありますか? 川邊 それはいくらでもありますよ。例えば、ワイモバイルの買収を断ったことですね。そのときは、宮坂さんと一緒でした。