セブンの独り負けは「弁当の上げ底」だけが原因じゃない 9年前から王者凋落の兆しはあった
ゴタつく現状を招くきっかけは…
セブンが今のようなゴタついた状況になった端緒は、2015年に展開した「オムニチャネル戦略」だったと筆者は考えている。 リアルとネットを融合させ、顧客がシームレスに買い物できることを目指すこの戦略は、当時のセブンのトップであり、“コンビニの父”と呼ばれた鈴木敏文会長の肝煎りで始まった。セブンのネット通販の先駆け「イー・ショッピング・ブックス」の取締役だった鈴木氏の次男・康弘氏を2014年にセブンHDの執行役員CIOに迎え、盤石の体制を整えたうえで、セブンを中心に、傘下のヨーカドーやそごう・西武、ロフトなどを横断して買い物ができるサービス「オムニ7」を進めたのである。 しかし、すでに楽天市場やAmazonなどのネット通販ほとんどの商品が買える時代になっていた。グループ企業だけで顧客のニーズを満たすことが不可能なのは自明の理であり、構想は早々に暗礁に乗り上げてしまう。機能面でも、顧客にとって使いやすいシステムが構築できなかった。
“流通王”にはなれなかった
システムといえば、自社QRコード決済の「7Pay(セブンペイ)」も上手くいかなかった。2019年に導入されたが、セキュリティの脆弱性と不正アクセスによって顧客の情報が流出し、5500万円を超える被害総額を出した。スタートからわずか3ヶ月後にサービスを終了したことは記憶に新しい。 オムニ7は2023年1月に閉鎖された。1兆円を見込んでいた売上高には全く届かず、毎年1000億円前後と伸び悩んだ。19年度には2桁%のマイナス成長を記録してもいる。オムニチャネル戦略を推し進めた鈴木敏文会長は、これより早い2016年にセブンHDを退いている。振り返れば、1992年に社長に就任しその後会長も務めたヨーカドーの経営改善も失敗している。そのうえ、各小売業業態を束ねて挑んだ販売戦略も大失敗させたことを思うと、鈴木氏は“コンビニの父”ではあったものの“流通王”にはなれなかったといえるだろう。 今回のセブンの独り負け、そして先述したセブンHDの一連の騒動は、売却や撤退をふくめた企業の効率化の改革が、遅きに失したことに原因がある。コンビニだけをみても、過去の成功体験に依存し、新たな環境や消費者のニーズに対応しきれなかった感が強い。それは言い換えれば、鈴木氏が残した負の遺産に、今の経営陣がうまく対処できなかった結果ということになる。フォートレス・インベストメント・グループやアリマンタシォン・クシュタールなど外資企業からの提案、いわば外圧によって変化が促され、ようやく本格的に自社での企業価値向上に舵を切ったわけだ。