放送と戦争を描く『アナウンサーたちの戦争』 元読売テレビ・清水アナの胸中「もし自分だったら…」
現在、全国で公開中の映画『アナウンサーたちの戦争』。演出を手がけたNHK大阪放送局チーフディレクターの一木正恵さんがラジオ関西の番組『Clip』にゲスト出演し、同作について語りました。 【写真】森田剛が伝説のアナウンサーを熱演! 映画『アナウンサーたちの戦争』 『劇場版 アナウンサーたちの戦争』は、2023年8月14日にNHK総合テレビで放送された作品を映画化した劇場版。太平洋戦争の最中、日本軍のラジオ放送によって行われた「電波戦」の実話をもとに、当時のアナウンサーにスポットを当てて戦争と放送の関係を描いています。 ナチスのプロパガンダ戦にならい、「声の力」によって戦意高揚・国威発揚を図り、また、偽情報で敵を混乱させたアナウンサーたちの葛藤や苦悩を表現した作品です。 同作では、1941年12月8日にラジオで行われた開戦の第一報から、同僚アナウンサーの南方占領地への赴任、そして玉音放送までを描いており、伝説のアナウンサー・和田信賢役は森田剛さんが演じています。 ラジオ関西『Clip』木曜日で番組パーソナリティーを務めるフリーアナウンサーの清水健は、読売テレビ時代、夕方の報道番組『かんさい情報ネットten.』のメインキャスターを担当。その経験を踏まえつつ、同作を観た思いについて「アナウンサーを25年やらせていただいていますが、アナウンサーとしても、放送に関わる人間としても、もっと前にこの事実を知りたかった。知るべき事実だったのではないか」とコメント。一木さんも、「私もそう思います」と大きくうなずきました。 NHK朝の連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』でドラマアカデミー賞最優秀作品賞、ギャラクシー賞を受賞するなど、数々の注目作品にたずさわってきた演出の一木さん。同作に込めた思いについて、このように語りました。 「初めて解き明かされる事実に、放送に関わる人間として衝撃を受けました。ただ、彼ら(先輩方)の生き様や彼らがやってきた仕事と、私たちの“いま”は地続きなんだということを私たち自身が理解し、そして、いまも戦争が止まない時代に広く世の中の皆様方にも問いかけ、自分事として考えていただけるきっかけになれば」(一木さん) 清水アナは、印象に残ったシーンとして主人公・和田信賢アナの著作にも残っている言葉を挙げ、その心境についても詳細に語りました。 「もし、自分があの時代にアナウンサーだったらどうしたのか、想像しようとしても考えるのを途中でやめてしまうぐらい。アナウンサーとして究極の問題に向き合い続け、戦争という現実に翻弄されるなかで、『信用のない言葉こそ 惨めなものはない』という言葉は、いま、ここでマイクの前で話している自分に強く言い聞かせたい」(清水アナ) さまざまな思いがひしめくなか、清水アナは、「(キャスターとして)伝えたいことが伝えられない苦しさ。自分がいま、マイクの前で話している言葉はどういった影響を与えてしまっているんだろうかと考えるこわさは計り知れない」と強く感じたそう。 この言葉を受け、一木さんは作中のあるシーンの裏側を明かしました。 「和田信賢さんが、『国土防衛は協力一致』『最後まで頑張れ』と叫ぶシーンの映像表現では、自らが演説者であり、まさにナチスのプロパガンダ戦みたいなことも意識していました。そのため、(演じる)森田さんには、『あなたの精神はもうヒトラーになってしまっている。そのつもりで歌い上げてほしい』と話しました。恐らく、その言葉を発したあとにふと現実に戻り、『これでいいのか』『何をやっているのか』と震えあがり、アナウンサーという役割の乖離(かいり)に恐れおののいたと思います」(一木さん) 映画公開を経て改めて、「放送の役割、アナウンサーの役割はどうあるべきか」と尋ねられた一木さんは、「放送は、アナウンサーや情報を伝達する人たちが一方的に何かを伝えるのではなく、人の話を聞き、声を出せない人の声を聞くこと(が必要)」とひと言。 そのうえで、「和田信賢さんが、放送を聞いている人々が知ることのできない、戦争で亡くなった人たちの遺族の声や、自ら発信できない人々の声を集め、代弁者、媒介者となって発信したことこそが放送の役割であり、やらなくちゃいけないことなのではないか。『マイクを自分のものではなく、みんなのものに』ということだと思います」と付け足しました。 作品を通して、「大人が起こした戦争で実際に命を落としているのは子どもたちである、というあってはならない事実を、いまこういう時代だからこそもう一度追体験してほしい」と願う一木さん。 「決して戦争が好きなわけではまったくなく、普通の人間たちや学校の先生、メディアまでもが、結果として戦争に関わらなければいけなかった悔しさ、悲しさ、怒りというものを追体験していただきたいなと思います」と熱く語りました。 「ラストシーンにある子どものひと言。その言葉をぜひとも劇場で見ていただきたい」と言葉を強めた清水アナ。 その真意については、「『言葉で人の心に残る瞬間をつくりたい』。そう思って僕はアナウンサーを目指し、いまでもそんなアナウンサーになりたいと思っています。ラストシーンにあるひと言は、僕の目指しているアナウンサーの形で、でも、だからこそ、言葉のこわさ・伝える責任を深く考えました」と述べました。 映画『アナウンサーたちの戦争』は、兵庫では現在、神戸・三宮のOSシネマズミント神戸で公開中です(※上映終了日未定)。 ◆一木正恵 NHK大阪放送局チーフディレクター。朝ドラ、大河ドラマ演出作多数。朝ドラ「ゲゲゲの女房」でドラマアカデミー賞最優秀作品賞、ギャラクシー賞、「おかえりモネ」でギャラクシー賞奨励賞。大河ドラマ「八重の桜」で国際エミー賞ファイナリスト、 「いだてん~東京オリムピック噺」で東京ドラマアウオードグランプリ。また 閉鎖された福島県浪江町で撮影を敢行した「LIVE! LOVE! SING! 生きて愛して歌うこと」でプロデューサーとしてドラマを映画化、劇場公開した。 ※ラジオ関西『Clip』木曜日より
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