日本に五輪の熱気は戻るのか―パレードはなく、トップスポンサー撤退の動きも
IOCは日本での五輪開催を示唆
パリ五輪の期間中、IOCのクリストフ・デュビ五輪統括部長が「日本が開催を検討するかは分からないが」とした上で、「近い将来、また冬季大会などの開催地になるだろう」などと日本メディアに対して言及したことがニュースになった。 2030年冬季五輪の招致を進めていた札幌が断念を表明し、開催地は30年がフランスのアルプス地方、34年は米国のソルトレークシティーに同時決定したばかりだ。38年もスイスと優先的に交渉すると発表されている。にもかかわらず、IOCの幹部がこのような発言をしたということは、札幌の再挑戦を期待してのことかもしれない。 冬季五輪は地球温暖化の影響もあって、名乗りを上げる都市さえ減っている。とりあえず、今回は2大会一括で決定したが、今後のことも考えれば、冬季五輪を開催できる都市には、可能性を残しておきたいのだ。 ただ、日本の「五輪熱」が冷め、電通など広告代理店も積極的に動かない状態で招致に再び乗り出すことはあり得るだろうか。デュビ氏の発言に対しては、交流サイト(SNS)でも冷ややかな意見が相次いだ。まだ国民の理解が得られるような状況とはいえないだろう。
日本は先導して「五輪運動」の推進を
パリ五輪の閉会式を前にしたIOC総会で、トーマス・バッハ会長は来年6月の任期満了をもって勇退する意向を明らかにした。そこで次期会長候補の1人に挙がっているのが、国際体操連盟(FIG)の会長を務める日本の渡辺守成氏である。東海大体操部時代にブルガリアへ留学し、新体操界との関係を作って帰国。その後はジャスコ(現イオン)の社員として新体操教室の全国的な普及に努め、日本体操協会の役員を経てFIGの会長にまで上り詰めた人物だ。 IOC会長選は来年3月に開かれ、ロンドン五輪の組織委会長を努め、現在は世界陸連会長であるセバスチャン・コー氏(英国)が有力候補として取り沙汰されている。西側諸国がボイコットした1980年モスクワ五輪に出場し、陸上男子1500メートルで金メダル。逆に東側諸国が参加しなかった84年ロサンゼルス五輪でも連覇を果たしたオリンピアンである。 選挙の行方がどうなるかは分からない。ただ、日本がオリンピック・ムーブメント(五輪精神を広める運動)を積極的に推進し、そのリーダーシップの一翼を担うことは極めて重要である。政治家の思惑や企業の利益に振り回された東京五輪の教訓を忘れてはならない。五輪の熱気を日本に取り戻すには何が必要か、改めて考える機会だ。
【Profile】
滝口 隆司 毎日新聞論説委員(スポーツ担当)。1967年大阪府生まれ。90年に入社し、運動部記者として、4度の五輪取材を経験したほか、野球、サッカー、ラグビー、大相撲なども担当した。運動部編集委員、水戸支局長、大阪本社運動部長を経て現職。新聞での長期連載「五輪の哲人 大島鎌吉物語」で2014年度のミズノスポーツライター賞優秀賞。2021年秋より立教大学兼任講師として「スポーツとメディア」の講義を担当。著書に『情報爆発時代のスポーツメディア―報道の歴史から解く未来像』『スポーツ報道論 新聞記者が問うメディアの視点』(ともに創文企画)がある。