銀行は世の中の役に立っているのか…元メガバンカーの経済評論家が解説
「10年後に返します」「了解!」長期資金の貸し出しに対応
人々の余裕資金は変動します。給料日には余裕資金があっても、次の給料日の前日には余裕がないかもしれず、子どもの教育費がかさむ時期には余裕ゼロかもしれません。そうなると、個々のサラリーマンは「10年後に返すから貸して欲しい」という企業があっても貸すことができません。 しかし、銀行にはいつでも資金があります。多くのサラリーマンがそれぞれ異なる時期に資金に余裕ができて預金を増やしてくれるからです。 こうして、銀行が間に入ることで、巨大企業が長期間にわたる巨大なプロジェクトの資金を調達できる、というわけです。
預金にも貸出にも活用される「大数の法則」ってなんだ?
コインを2回投げても表が1回とは限りませんが、2万回投げると概ね1万回は表が出るのだそうです。これを統計学では「大数の法則」と呼んでいます。銀行のビジネスは、じつはこれを利用しているのです。 個々の預金者が預金を入金するタイミング、預金を引き出すタイミングは予測できませんが、100万人の預金者がいれば、たとえば毎日概ね1万人が入金し、概ね1万人が引き出すと予測できるので、金庫にそれほど金がなくても大丈夫なのです。 大数の法則を知らなければ、「ある日、預金者が全員預金を引き出しに来るかもしれない。預かった金は貸出にまわさず、金庫に積み上げておこう」ということになり、貸出ビジネスが行なえないでしょうが、実際には大丈夫なのです。 もっとも、例外はあります。「取り付け騒ぎ」です。「あの銀行は倒産しそうだ」という噂が流れると、預金者が一斉に預金を引き出しに来るかもしれません。それを恐れていると銀行は貸出ができなくなってしまいます。それでは困るので、「取り付け騒ぎが起きたら日銀の現金輸送車が助けに来る」ことになっています。だからこそ銀行は安心して貸出ができるのです。 貸出面でも大数の法則は役に立ちます。たとえば「100万社に金を貸せば、概ね1万社が借金を踏み倒す」といったことが予想できるならば、すべての借り手に1%だけ金利を上乗せして貸せばよいからです。 もっとも、貸出面にも例外はあります。残念ながら、バブル期の銀行の貸出は「不動産購入資金」に偏っていました。多様な貸出を行っていれば大数の法則が成り立つのですが、貸出先が偏っていたために、不動産価格が下落したことで銀行は巨額の貸し倒れ損失を被ってしまったのです。